ノーベル物理学賞の「量子もつれ」、古澤明・東大教授の貢献も世界的に有名

2022年のノーベル物理学賞は、ミクロな粒子の間で生じる特殊な遠隔作用「量子もつれ」が存在することを実験で示すことに貢献した米欧の3氏に決まった。「量子もつれ」を巡る研究分野では、日本の古澤明・東京大教授(60)の貢献も世界的に知られ、同賞の有力候補の一人とされてきた。
古澤氏は米カリフォルニア工科大に留学中の1998年、「量子もつれ」の関係にある光のペアで情報を瞬時に移す「量子テレポーテーション」を完全な形で実証することに世界で初めて成功した。今回、受賞が決まったツァイリンガー氏がこの現象を初めて実験で示した翌年のことだった。
古澤氏の98年の業績は、米科学誌「サイエンス」によって世界の10大ニュースにも選ばれるなど注目を集めた。古澤氏は帰国後、東大で研究を続け、2004年には、3つの粒子でもテレポーテーションを実現させた。現在は、この現象を応用した量子コンピューターの開発でも世界をリードしている。
大阪大の藤井啓祐教授(量子情報科学)は「今回は量子力学の基礎理論を確立したことが評価され、応用研究を進めた古澤氏が選ばれなかったことは残念」としながらも、「3氏の受賞はもっと早くてもよかった。新しい時代の幕開けだと感じる」と評価する。名古屋大の谷村省吾教授(量子論)も「量子もつれの存在を示したことで、量子コンピューターが実現可能なことを裏付けた」と話した。
川畑史郎・産業技術総合研究所副研究センター長は「量子コンピューターや量子通信など、現在の技術の発展につながる原理を実証した3氏で、この分野の『巨人』ともいうべき存在だ。今後もこの分野での受賞が続くことが期待される」と話した。