ニュースの核心 防衛費増額〝海保予算で水増し〟姑息な「見せかけ2%」は財務省の入れ知恵か 「海保は軍隊なのか」悪知恵で国内分断の予兆

ロシアによるウクライナ侵攻を受け、日本を取り巻く安全保障環境は激変した。岸田文雄政権は「自分の国を自分で守る」という国家意思を示すため、5年以内に「防衛費のGDP(国内総生産)比2%以上の増額」を達成しなければならない。ところが、防衛費の中に、海上保安庁の予算や、PKO(国連平和維持活動)関係拠出金、旧軍人恩給など、他省庁の予算を組み入れて、「見せかけの防衛費増」を狙っている勢力がある。ジャーナリストの長谷川幸洋氏は、日本国内で「仲間割れ」を招き、米国やNATO(北大西洋条約機構)の信頼を失いかねない愚策を一刀両断した。 ◇ 防衛費の増額をめぐって、自衛隊だけでなく海上保安庁の予算も含めて計上し、「GDP比2%目標」を達成すべきだ、という議論が起きている。これまで含めていなかった海保予算も加えれば、その分、2%達成が容易になる、という思惑だ。 何がなんでも、予算の拡充を防ぎたい財務省の入れ知恵だろう。だが、そんなことをしたら、防衛省と海保の内輪もめを招き、ひいては米国やNATOの信頼も失いかねない。後に禍根を残す、「姑息(こそく)な愚策」だ。 そもそも、「防衛費のGDP比2%目標」の根拠は何かといえば、NATOが加盟国に求めている基準である。いわば「西側諸国の標準」なので、日本も達成に努力しよう、という話になった。 NATOが定める「防衛費」の定義はどうなっているか。 それには沿岸警備隊(=海保に相当)などの費用も含めることができるが、具体的には「軍事戦術の訓練を受け、軍事力を備え、派遣された作戦では軍事指導部の直接の配下に置かれ、現実的には軍事力を支援して、領土外に派遣できる部隊に比例して」計上できる、と定めている。 ここで問題になるのは、「海保の部隊が自衛隊の指揮下に入るかどうか」、かつ「自衛隊の指揮下で領土外にも軍事支援に派遣できるか」だ。 海上保安庁法25条は、「海上保安庁又はその職員が軍隊として組織され、訓練され、又は軍隊の機能を営むことを認めるものとこれを解釈してはならない」と記されている。 これは「海保の憲法」のような規定である。NATO基準にあるように、「いざとなったら、海保は自衛隊の指揮下に入って戦うんだぞ」などと言われたら、海保は組織を挙げて、大抵抗するに違いない。 一方、自衛隊法80条1項は、自衛隊が防衛出動または治安出動する場合、特別の必要があれば、「(内閣総理大臣は)海上保安庁の全部又は一部を防衛大臣の統制下に入れることができる」と定めている。
ロシアによるウクライナ侵攻を受け、日本を取り巻く安全保障環境は激変した。岸田文雄政権は「自分の国を自分で守る」という国家意思を示すため、5年以内に「防衛費のGDP(国内総生産)比2%以上の増額」を達成しなければならない。ところが、防衛費の中に、海上保安庁の予算や、PKO(国連平和維持活動)関係拠出金、旧軍人恩給など、他省庁の予算を組み入れて、「見せかけの防衛費増」を狙っている勢力がある。ジャーナリストの長谷川幸洋氏は、日本国内で「仲間割れ」を招き、米国やNATO(北大西洋条約機構)の信頼を失いかねない愚策を一刀両断した。

防衛費の増額をめぐって、自衛隊だけでなく海上保安庁の予算も含めて計上し、「GDP比2%目標」を達成すべきだ、という議論が起きている。これまで含めていなかった海保予算も加えれば、その分、2%達成が容易になる、という思惑だ。
何がなんでも、予算の拡充を防ぎたい財務省の入れ知恵だろう。だが、そんなことをしたら、防衛省と海保の内輪もめを招き、ひいては米国やNATOの信頼も失いかねない。後に禍根を残す、「姑息(こそく)な愚策」だ。
そもそも、「防衛費のGDP比2%目標」の根拠は何かといえば、NATOが加盟国に求めている基準である。いわば「西側諸国の標準」なので、日本も達成に努力しよう、という話になった。
NATOが定める「防衛費」の定義はどうなっているか。
それには沿岸警備隊(=海保に相当)などの費用も含めることができるが、具体的には「軍事戦術の訓練を受け、軍事力を備え、派遣された作戦では軍事指導部の直接の配下に置かれ、現実的には軍事力を支援して、領土外に派遣できる部隊に比例して」計上できる、と定めている。
ここで問題になるのは、「海保の部隊が自衛隊の指揮下に入るかどうか」、かつ「自衛隊の指揮下で領土外にも軍事支援に派遣できるか」だ。
海上保安庁法25条は、「海上保安庁又はその職員が軍隊として組織され、訓練され、又は軍隊の機能を営むことを認めるものとこれを解釈してはならない」と記されている。
これは「海保の憲法」のような規定である。NATO基準にあるように、「いざとなったら、海保は自衛隊の指揮下に入って戦うんだぞ」などと言われたら、海保は組織を挙げて、大抵抗するに違いない。
一方、自衛隊法80条1項は、自衛隊が防衛出動または治安出動する場合、特別の必要があれば、「(内閣総理大臣は)海上保安庁の全部又は一部を防衛大臣の統制下に入れることができる」と定めている。