滋賀・守山の中2自殺 「第三者委がネグレクト評価」両親が市提訴へ

「祖父母が養育者として機能した結果、ネグレクト状態(育児放棄)は回避できた」。滋賀県守山市で5年前に自殺した市立中学2年の男子生徒(当時14歳)を巡り、市の第三者委員会が作成した調査報告書で、両親の養育姿勢を否定するような内容が記載されていたことが判明した。両親は共働きで、近くに住む祖父母に協力を得ながら子育てをしていた。報告書は自殺原因を「不明」としたが、家庭に問題があったと受け取れる記述もあった。
両親は「原因が分からず悲しみに暮れているのに、第三者委の不十分な調査で尊厳も傷つけられた」として、守山市に200万円の損害賠償を求める訴えを大津地裁に近く起こす。両親らが明らかにした。
男子生徒は2017年11月、中学校で自ら命を絶った。夜間に校舎から転落したとみられ、遺書は見つからなかった。市教育委員会は翌12月、いじめの有無や自殺原因を調査する第三者委を設置。メンバーの弁護士や臨床心理士らはいじめ防止対策推進法などに基づき、家族や学校関係者らへのヒアリングを実施した。
19年6月に作成された調査報告書は男子生徒の両親に渡されたが、市側は今まで公表していない。
毎日新聞が入手した報告書によると、同級生らへの聞き取り調査の結果、男子生徒は一部の生徒に付けられたあだ名を嫌がっていたことが分かった。第三者委はこの行為を「いじめ」としたが、「自死に追い込むような悪質なものではない」と判断。そのうえで男子生徒の家庭環境に触れた。
男子生徒は両親と弟の4人暮らしで、両親は共働きだった。平日は母親が早朝出勤だったため、男子生徒は週に数回、近くの祖父母宅で朝食を取ってから登校していた。幼少期は毎朝のように祖父母宅に預けられたが、中学生になってからは祖父母宅に寄らず学校に直接向かうこともあった。
第三者委は報告書で家族の関係性について「(調査で)多くは話されていない」としながら、「生徒が悩みを吐露することができるような十分なコミュニケーションを持てていたとは考えにくい」と指摘した。母親が男子生徒の死亡直後、学校に「朝も先に行くから出会えないし、夜も会話がないから子供のことが分からない」と繰り返したとする経緯を挙げた。
さらに、「多忙な両親に代わり、祖父母が主たる養育者として機能したと推測され、ネグレクト状態に陥ることを回避できた」とも記述。自殺原因について「断定的なことはわからない」と結論付けたのに、家庭環境に一因があったとも読める表現が確認された。
両親は子供との時間を確保するため、「父親は転職し、母親も帰宅時間を早める工夫をしていた」と話す。第三者委が示した学校での母親の発言内容については「『死亡原因に心当たりはあるか』と何度も尋ねられたので、分からないと答えただけで事実と異なる」と反論。市側に報告書の修正を求めたが応じなかったとして、提訴することを決めた。
両親の代理人を務める生越照幸弁護士(大阪弁護士会)は「第三者委は客観的な証拠を示さず、誤った評価で両親の人格権を侵害した。非常に問題だ」と語った。
守山市教委学校教育課は取材に「現時点でお答えできない。訴状が届いたら、内容を確認して対応したい」としている。【山本康介】
相談窓口
・24時間子供SOSダイヤル
いじめやその他の悩みについて、子どもや保護者などからの相談を受け付けています。原則として電話をかけた所在地の教育委員会の相談機関につながります。
0120・0・78310=年中無休、24時間。
・子どもの人権110番
「いじめに遭っている」「家の人に嫌なことをされる」など、先生や親には話しにくい相談に法務局の職員や人権擁護委員が応じます。
0120・007・110=平日の午前8時半~午後5時15分
・こころの悩みSOS(https://mainichi.jp/shakai/sos/)
悩みを抱えた当事者や支援者への情報のほか、相談機関を紹介した毎日新聞の特設ページです。