新型コロナウイルスに感染して亡くなった人の葬儀に関する相談が後を絶たない。国民生活センターには、この2年半で約250件が寄せられ、多くが「消毒費」や「専用の霊きゅう車代」などとして費用を上乗せする葬儀業者を指摘する声だ。国は「納体袋に収容すれば特別な対策は不要」と呼びかけるが、なかなか改善はみられない。(河津佑哉、谷口京子)
「新型コロナ感染ご遺体搬送 33万円」。福岡県筑紫野市の男性(80)は今年8月、85歳で亡くなった妻の葬儀費用に驚いた。総額で約65万円。通夜や告別式を行わない「直葬」は20万~30万円とされるが、2~3倍だった。
妻は8月に体調を崩して入院した際にコロナ陽性が判明し、5日後に老衰で死亡した。葬儀業者に連絡すると「専用車で運ぶ。即日火葬する」との説明を受けた。火葬は一般向けが終わった午後6時以降に実施。火葬業者は防護服姿で危険物を扱っているように見え、「最後に顔を見たい」と求めたがかなわず、長男夫婦、長女とで拾骨した。
男性は「これほど費用をかけた対策が必要なほど、遺体は感染リスクが高いのか」と疑問を投げかける。業者は取材に「答えられない」と話した。
国民生活センターへのコロナ患者の葬儀に関する相談は感染が拡大した2020年度は68件、21年度は120件。今年度は今月21日までに57件でほぼ同じペースだ。「防護服名目で特別料金を取られた」「数人の参列者なのに『3密』対策を理由に割高な広い会場を勧められた」など、費用上乗せに関する内容が多い。
厚生労働省は20年の指針で、遺体への納体袋の使用を推奨。ただ、「遺体は
飛沫
(ひまつ)を出さず、感染リスクは極めて低い」と強調し、透明な納体袋で顔を見えるようにするなど「遺族への配慮」を求めている。
同省は複数回周知するが、福岡県内のある業者は約30万円の上乗せを続け、「コロナ1年目のやり方をずるずる踏襲している」と明かす。NPO法人「葬儀を考えるNPO東京」の高橋進・代表理事は「直葬が多いコロナ患者は、業者にとって利益が少なく、消毒費などをつり上げている恐れがある」と指摘する。
コロナによる死者は、累計で約4万8900人。第7波では、8月の1か月で最多の7328人に上った。火葬では一般とコロナ患者で時間を分ける業者が多く、沖縄県では火葬が追いつかずに2週間待ちとなり、遺体安置だけで20万円を払った遺族もいたという。
政府は、第8波の感染者を7波の2倍の1日45万人と想定する。橋口隆生・京都大教授(ウイルス学)は「パンデミックで過剰とも言える対応を防ぐには、医療界だけでなく葬儀業界も含めて感染症の知見の共有が不可欠。気軽に情報が得られるサイトの設置や企業内のウェブ講習など環境整備が必要だ」と指摘する。