塩野義製薬の開発した新型コロナウイルス感染症の治療薬「ゾコーバ」が緊急承認された。軽症者にも使える国産初の飲み薬で、適切に活用することが欠かせない。
緊急承認制度は、安全性に問題がなく、効果が推定できれば、通常より早く承認する仕組みで、今回が初めての適用だ。効果が期限内に確認できない場合は取り消されるという条件があり、ゾコーバの場合は1年以内とされた。
6月と7月にも、臨床試験(治験)の中間結果をもとに緊急承認の可否が話し合われたが、「有効性が推定できない」として継続審議になっていた。
その後の治験により、のどの痛みや発熱など、オミクロン株に多い症状が消えるまでの期間を1日短縮する効果が示され、緊急承認が決まった。流行の「第8波」に間に合う形で、治療の選択肢が増えることは安心材料になる。
国内で使われている海外の飲み薬2種類は、対象が重症化リスクの高い高齢者らに限られるのに対し、ゾコーバは軽症や中等症の若い世代にも使えるのが利点だ。
ただ、併用できない薬が36種類もあり、妊婦は使えない。症状の短縮効果が「1日」という結果も評価が分かれるところだろう。
現時点では、重症化を防ぐ効果があるかどうかも確認されていない。期待し過ぎて不適切な使用につながらないよう注意したい。
問題は、薬をいかに患者に届けるかである。政府は、発熱外来の受診について、高齢者や基礎疾患のある患者らを優先し、それ以外は自宅療養を原則としている。
ゾコーバは、発症から3日以内に飲み始めないと効果が乏しく、処方には患者の同意書が必要とされる。薬の対象となる軽症者は、自宅療養しながら、どのように薬を入手すればよいのか。
混乱なく薬を入手できる環境が整っていなければ、緊急承認の意味も薄れてしまう。患者が安心して診察と処方を受けられるよう、体制を早急に整備してほしい。
新薬は、発売後に深刻な副作用が確認される場合もある。国や製薬会社はしっかり情報を収集し、国民と共有することが大切だ。
薬の緊急承認制度は今後、新たな感染症が流行した場合の対応としても重要になる。今回、2度にわたり継続審議とされたことで、「判断基準があいまいだ」などという批判の声もあった。
制度の役割を生かすため、国は明らかになった課題を検証し、改善に努めてもらいたい。