「何だかんだ言っても森さん」 元理事、森元首相の名前で企業翻弄か

平和の祭典の舞台裏で何が行われていたのか。「五輪利権」の闇を解明する注目の公判が22日、東京地裁で始まった。法廷でのやりとりからは、大会組織委元理事の高橋治之被告が数々の便宜を図っていた実態が浮き彫りとなった。
午後1時15分、東京地裁で最も広い104号法廷。黒スーツ姿のAOKIHD前会長の青木拡憲被告は、一礼して法廷に入った。マスクを着けていたため表情はうかがえなかったが、裁判長の問いかけや検察官の質問に淡々と応じていた。
検察側によると、AOKIルートの起点となったのは2017年1月、元理事が経営するステーキ店「そらしお」(東京都港区)での会合。「日本代表選手団の開会式で着る公式服装も受注できるようにする」。前会長は元理事からそう約束され、両者の蜜月が始まったとされる。
会合から約5カ月後、元理事は、ある懸念を前会長に伝えた。組織委会長としてスポンサー選定の決定権を握っていた森喜朗元首相の名前を挙げ、AOKI側に悪い印象を抱いているとし「何だかんだ言っても決めているのは森(喜朗)さんだ。誤解は解いた方がいい」と伝えたという。
程なく元理事により会食の場が設定され、前会長らは「AOKIに公式服をお願いしたい」と森元首相に願い出た。AOKI側と元理事側との間で賄賂の授受が始まったのは、この会食後のことだった。前会長は東京地検特捜部の聴取に「公式服について森会長の好感触を得たと感じた」と述べたとされ、森元首相の影響力を背景に元理事が企業を翻弄(ほんろう)していた構図が浮かぶ。
一方、公判では前会長による「証拠隠滅」行為も明かされた。前会長は社内で「元理事に毎月100万円支払っているんだから、何でも駄目元でお願いしてみろ」と発破をかけていた。ところが、今年4月に特捜部の捜査が始まったことを知ると、「危ないものがあるならシュレッダーしろ。やっちまえ」と指示したという。
前会長は22日の被告人質問で、この経緯について「(捜査は)私にとって青天のへきれきで、気が動転していた」と釈明。「事件は私が主導し、(起訴されたほかの)2人を巻き込んでしまって、迷惑をかけて申し訳ない」と謝罪した。【志村一也】