奈良市で演説中の安倍晋三元首相(当時67歳)が銃撃され死亡した事件で、奈良県警は、殺人容疑で送検された山上徹也容疑者(42)について、銃刀法違反や武器等製造法違反など複数の容疑でも立件する方針を固めた。山上容疑者は複数の銃を自作して試射を重ねるなど長期間の準備をした上で事件に及んだとされる。県警はこうした計画性を立証することが動機の解明につながるとみて詰めの捜査を進めている。
山上容疑者は2023年1月10日までの期限で鑑定留置中。奈良地検は専門医の精神鑑定などから山上容疑者の刑事責任を問えると判断し、同13日の勾留期限までに殺人罪で起訴する見通し。起訴されれば公判で刑事責任能力の有無なども焦点になるとみられることから、県警と地検は事件に至る山上容疑者の強固な計画性や殺意を立証する方針だ。
山上容疑者は7月8日午前11時半ごろ、奈良市の近鉄大和西大寺駅北口で演説中だった安倍氏を背後から銃撃して殺害したとされる。捜査関係者によると、山上容疑者は母親が世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に総額約1億円を献金し、家庭が崩壊したと説明。「教会の活動を日本に広めたのが安倍氏だと思い襲撃した」などと供述しているという。
安倍氏を襲撃する際に使用されたのが、金属製の筒2本をテープで束ねた手製銃だった。山上容疑者は襲撃の1年以上前の21年春ごろに製作しはじめ、事件で使ったものと似た構造の銃を含めて複数丁を完成させた。これらが出来上がるたびに奈良県内の山中で試射を繰り返し、殺傷能力を高めていったとされる。試射現場からは複数の弾痕があるベニヤ板やドラム缶が見つかり、県警が押収した。
事件で使われた銃は引き金を引くと一つの筒から6発の弾丸を発射できる仕組みで、安倍氏の銃撃現場では発射地点から約90メートル離れた立体駐車場の外壁に、銃弾とみられる金属片がめり込んでいるのも確認された。発射に使う火薬もインターネットの情報を参考に、市販の農業用肥料などを調合して自作。銃の製作と同じ時期から作り始め、自宅のマンションとは別に火薬を乾かすためのアパートの一室や屋根付きガレージを借りるなど、銃撃に向けて入念に計画を練っていたことをうかがわせた。
県警は事件の計画性を示す上で、手製銃の使用に対して銃刀法を適用することなどを検討してきた。同法が規定する「銃砲」は判例などから、金属製の弾丸を発射する機能があり、殺傷能力があるものとされる。ただ、同法は既製銃の規制を念頭に置いていることから、県警は山上容疑者が自作した銃の構造や命中精度、火薬の威力などを詳細に調査した。その結果、安倍氏の銃撃時に使用された銃に十分な殺傷能力があることを確認。「銃砲」に該当すると結論づけ、銃刀法違反や武器等製造法違反、火薬類取締法違反容疑に問えるとの見方を固めた模様だ。
さらに山上容疑者は事件前日の7日未明、奈良市内にある教会の関連施設に向け、手製銃を試射したことも明らかになっている。試射をした後の同日午後には新幹線で岡山市へ向かい、演説中だった安倍氏を銃撃しようとしたが、警備の状況から断念。奈良へ戻る途中で安倍氏が8日に奈良市内で演説することをインターネットで把握し、銃撃を実行に移した。
県警は関連施設への試射が、教会や安倍氏への強固な恨みを裏付ける行為だと着目。建造物損壊容疑の適用も視野に入れている。【吉川雄飛】