同居していた元交際相手の男性を包丁で殺害したとして殺人罪に問われた無職の女(20)の裁判員裁判で東京地裁は懲役9年の実刑判決を言い渡した。犯行当時19歳で、昨年4月に施行された改正少年法で18~19歳の「特定少年」として起訴時に実名が公表されて始まった公判。公判では20歳以上の通常の成人と同様に扱われる一方、大人になり切れない子供としての側面も顔をのぞかせた。
「息子を返して」と叫んだ被害者の母親
事件は昨年1月9日午後に発生。判決によると、犯行当時19歳だった被告は同居先のベッドで寝ていた元交際相手の男性=当時(25)=の腹部を包丁で1回刺して殺害した。
東京地検は同5月、被告を殺人罪で起訴。18、19歳の「特定少年」の実名報道を起訴後に可能とする改正少年法に基づき、被告の実名を公表した。全国で3例目だった。
被告は男性と出身の青森市で交際を始め、高校を卒業し上京、令和3年3月から現場アパートで同居を始めた。同5月に交際関係は解消したものの、事件当日まで1年弱にわたって同居生活を続けていた。
そんな関係が終わりを迎えたきっかけは、「動画」だった。
被告は男性に性的な動画を撮影されており、何度頼んでも削除してもらえなかった。男性に動画を拡散されてしまうのではないか-。不安を募らせた被告は事件当日の昼、改めて男性に削除を求めたが、男性は拒否。被告は、衝動的に犯行に及んだ。
「息子を返してほしい」。公判に出廷した男性の母親は、息子の交際相手としてかつて誕生日プレゼントも贈った被告に対し、そう涙声で訴えた。
弁償続けると訴えた被告の母親
特定少年として「通常の成人」と同じ扱いで実名で公判に臨んできた被告だが、公判で明らかになったのは、親からのサポートを受ける「子供」としての側面だ。
高橋康明裁判長は判決で「取り返しの付かない犯罪を行った責任は重大」と断罪する一方、さまざまな事情を酌み、言い渡した刑を検察側の求刑13年より4年短い懲役9年にとどめた。
考慮されたのは、19歳という被告の「若さ」に加え、被告の母親らから被害者遺族への515万円の被害弁償だった。母親は、今後も弁償を続けると法廷で述べていた。
「両親の支援の下、今後の更生が期待できる」。高橋裁判長は判決言い渡しの終わり際、こう言及した。(宇都木渉)
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特定少年 令和4年4月1日施行の改正少年法で特例規定が適用される18、19歳。改正民法による成人年齢の引き下げに伴う措置で、健全育成を掲げる少年法の適用対象だが、17歳以下と比べて厳罰化した。家裁が検察官に原則として送致(逆送)する対象事件を拡大し、従来の殺人や傷害致死など「故意の犯罪行為で人を死亡させた罪」のほか、強盗や強制性交といった「法定刑の下限が懲役・禁錮1年以上の罪」を追加。起訴された場合、名前や住所、顔写真など本人を推定する報道(推知報道)を可能としている。