博多駅前女性刺殺 専門家「警告など法的対応だけでは被害防げぬ」

福岡市博多区のJR博多駅近くの路上で16日夜、会社員、川野美樹さん(当時38歳)が刺殺された事件では、ストーカー規制法に基づく禁止命令を受けていた元交際相手の飲食店従業員、寺内進容疑者(31)が殺人容疑で逮捕された。ストーカーの加害者が被害者に危害を加える事件が繰り返される中、どのような対策が求められるのか。元家裁調査官でストーカー問題に詳しい立命館大の広井亮一特任教授(司法臨床学)に聞いた。【聞き手・平川昌範】
――ストーカーの加害者が、警告や禁止命令が出された後にも被害者につきまとい、危害を加えようとするのはなぜか。動機や背景として考えられることは。
◆今回の事件のようなストーカーの加害者はハイリスクストーカーといえる。非常にゆがんだ依存性と攻撃性を抱えている可能性がある。ゆがんだ依存性とは、依存の対象である元交際相手などにしがみ付き、自分の思い通りにならないといらだっていく。更に、警察が入ったり禁止命令を出されたりという法的対応で相手から完全に関係を切られると、表面的には従順な言動をするものの、実は動揺して不安を強めており、怨恨(えんこん)の感情を抱き、相手に攻撃を向けていく。このため警告や禁止命令などの法的対応だけでは被害を防ぐことはできない。
――今回のような事件は過去にも相次いでいるが、殺害されるなど重大な事態を防ぐためには、どのような対策が必要か。
◆リスクの高いストーカーの特徴は、口頭注意や警告、禁止命令、検挙など法的対応を強化するほど怨恨の感情を募らせ、攻撃行動を悪化させることだ。激しい攻撃性を示す一方、法的対応にさらされることで内面は不安やおびえを強めているため、不安と依存性にアプローチすることがポイントになる。このため、加害者の不安と依存性を受け止めることができる専門家が臨床的に関与することが必要だ。法的対応と臨床的対応を同時に行わなければならず、分業では効果がないだろう。
――対策の一つとして、加害者に対する専門家のカウンセリングや医師による診断、治療が必要だという指摘もある。一方で、警察が医療機関の受診を働きかけても、本人が拒否すれば受診には至らない。
◆現状ではストーカー対策として法と臨床が同時に働きかける「司法臨床」によるアプローチが制度化されていない。一方で、ストーカーがいくらハイリスクだと判断されても、それを理由に逮捕したり、刑務所に収容したりして治療を強制することは危険な保安処分であり、基本的人権を守る観点からは許されない。それでは心理士のカウンセリングや精神科医の関与ができるかといえば、ハイリスクストーカーはそうしたカウンセリングや医師の関与には応じないだろう。また、日本ではストーカーに特化したカウンセリングや医療が確立していない。
これらの問題をクリアしなければならないので、簡単に法改正はできないだろう。このため現実的には、禁止命令などの法的対応をした際、ストーカーの不安や依存を受け止める仕組み、治療ではなく、あくまでも相談として関わり、本人が同意すれば治療につなげるなどの仕組みを構築していくことだ。
――具体的には。
◆例えば、警告や禁止命令の際に心理士が同席し、加害者に聞き取りをし、相談に乗り、合わせてリスク評価をして、必要に応じて治療を勧めるというやり方もある。ただ、今回の事件のようなケースでは加害者が法的対応を受けることにおびえる一方、攻撃的で過激な言動をする可能性がある。そうした加害者にも対応できるカウンセラーの養成も必要になるだろう。