世界自然遺産の沖縄本島北部に生息する希少種を保全するため、沖縄県と国頭、大宜味、東の3村、環境省沖縄奄美自然環境事務所の5者は2023年度から10年間で、やんばる3村の森林域や屋外にいるネコをゼロにする方針だ。県が昨年10~11月に実施したパブリックコメント(意見公募)には、過去10年で2番目に多い647人・団体(暫定値)が意見を寄せた。動物愛護団体は捕獲されたネコの殺処分を懸念するなど内容の見直しを訴えており、実施に向けて行政側は丁寧な説明が求められる。(社会部・東江郁香)
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5者はこれまでヤンバルクイナやオキナワトゲネズミなどを捕食しているとして、希少野生動物の保護の観点からネコをそれぞれの事業で捕獲してきた。今後連携しネコ対策を効率的に進めるため、計画案で初めて「10年間」という統一のゴールを設けた。
■見つけたら全て捕獲
計画名は「沖縄島北部における生態系保全等のためのネコ管理・共生行動計画(案) ずっとやんばるずっとうちネコアクションプラン」。生態系保全や公衆衛生維持の観点から(1)北部の森林域でのネコの排除(2)完全室内飼育の普及で、屋外での飼い主不明ネコ(ノラネコやノネコ)をいなくする-などを目標に掲げている。
計画案は、特定の飼い主はいないが人間から餌をもらって生きるネコを「ノラネコ」、自然環境下で自立して繁殖するネコは「ノネコ」と定義。飼いネコ、ノラネコ、ノネコを見た目で区別するのは困難なため、指定区域内で見つかったネコは全て捕獲する。飼いネコはマイクロチップから所有者をたどって返還し、飼い主不明ネコはホームページや掲示板などで周知して譲渡につなげるという。
■殺処分を懸念する声相次ぐ
また、完全室内飼育はネコが森林域と集落間を移動して起きる野生動物の捕食や豚など家畜への伝染病感染、不妊去勢手術が済んでいない個体の妊娠リスクの防止が目的となる。区域内外からのネコの遺棄をなくすため、適正飼養の普及啓発にも努める。
一方、県内外の動物愛護団体からは、捕獲したネコの殺処分のほか、不妊去勢手術をした上で外に放して地域全体で世話をする「地域ネコ活動」の制限を懸念する声が相次いでいる。
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県はノネコ等対策事業で16~21年度で144匹のネコを捕獲。うち、死んだ1匹を除く143匹を譲渡・返還した。担当者は「基本的に譲渡する前提で捕獲し、殺処分の可能性はほとんどない」と強調する。
多数の意見が寄せられたことに、「パブコメの意見を精査しながら関係機関で内容を協議していく」と説明。パブコメの内容を踏まえて22年度中に5者で協議し、4月から実施する予定だ。
■「命を選別する権利は誰にもない」
沖縄県や環境省などが2023年度から実施を予定しているやんばる3村でのネコ管理計画案は、世界自然遺産の本島北部で外来種対策の一環として、固有種や希少種の野生生物を守る狙いがある。一方、動物愛護団体は「議論が必要」「パブリックコメントだけでは説明不足」と指摘。捕獲されたネコが殺処分につながる可能性を危惧し、「命を選別する権利は誰にもない」と訴える。
世界自然遺産に登録されたやんばるの在来種の保護は、喫緊の課題となっている。
イエネコは世界の侵略的外来種ワースト100に指定されるなど、積極的に防除が必要な外来種と位置付けられている。研究者らの調査ではネコによるヤンバルクイナの捕食や、ネコのふんからオキナワトゲネズミなどの希少種が検出された事例が報告されている。
県は、捕獲したネコは譲渡する方針だが、引き取り先が見つからない状況が続けば殺処分の可能性にも言及している。
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大宜味村でネコの保護活動をする「にゃんばる わんばる」の小藤末子代表は、本島北部ではネコを放し飼いする人が多く、マイクロチップ装着も浸透していないのが現状と説明。「告知がないまま計画が始まると住民が混乱する。どんなネコにも生きる権利があり、人間もネコも希少種も共生できる方法を議論するべきだ」と呼びかけた。
本島北部で適正飼育の啓発活動などに取り組む「にゃごねっと」の鈴木雅子代表は屋外のネコを捕獲・不妊去勢手術し、元の場所に戻すTNR活動の妨げとなる恐れを懸念する。「県民のお金で命を処分する計画だ。県民の合意なしで始めてはいけない」と主張した。
■域外から遺棄 後絶たず【解説】
世界自然遺産の本島北部のネコ管理計画案は内容への指摘が相次ぎ、県と国頭、大宜味、東の3村、環境省の5者は慎重な対応が求められる。ただそれぞれがネコの捕獲や不妊去勢手術などを約20年前から行っていたにもかかわらず、今回初めて連携する方針を示したのは、同地域外からの動物の遺棄が後を絶たないことが背景にある。3村だけの問題ではなく、適正飼養や動物との共生について、県民全体が向き合う必要がある。
1994年の大国林道の完成以降、本島中南部から来て動物を遺棄する人が増えた。
本島北部ではマングースなどの外来種防除でヤンバルクイナなど希少種の生息が回復傾向にあるものの、ネコが多く確認される地域では依然として回復していないため、行政側は森林域からのノネコの排除を急いでいる。
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一方、計画案では捕獲したネコの譲渡を前提としているが、愛護団体から殺処分を懸念する声が上がるのは譲渡先を見つけるのが容易ではないからだ。2021年度に県動物愛護管理センターが譲渡したイヌ・ネコのうち、7割以上は愛護団体が引き取った。
狂犬病予防の観点から屋外にいるイヌは全て捕獲対象だが、ネコは自治体に収容義務がない。ネコの保護活動は既にどこも飽和状態で、愛護団体だけに引き取りを頼る状況が続けば団体が立ち行かなくなる恐れもある。譲渡の在り方や方法を見直す議論も同時に進めるべきだ。
(社会部・東江郁香)