「ロシアで元気に暮らしているといいな」。秋田県の佐竹知事がロシアのプーチン大統領に贈った秋田犬「ゆめ」の幼い頃の写真を手にする大館市のブリーダー、畠山正二さん(79)はつぶやいた。
ゆめは、東日本大震災の支援への返礼を兼ねて2012年、愛犬家のプーチン大統領に贈られた。秋田犬保存会(大館市)を通じて依頼を受けた畠山さんは、生後3か月のゆめを送り出した。現在10歳の「ゆめ」は、日本語の「夢」にちなみ、プーチン大統領自身が名付けた、と聞いた。
畠山さんによると、ゆめは素直で人懐こい性格。皮膚が弱く毛が抜けやすかったため、週1回のシャンプーを欠かさなかった。ロシア渡航後しばらくは、新聞などの報道を通じて現地で元気に暮らす様子を知ることができた。
畠山さんが自宅横で運営する犬舎「比内三岳荘」には、12歳のゆめの母犬「 優姫 (ゆうひめ)」がいる。「ゆめも親と似て体が大きくなっているはず。どんなふうに育ったのだろうか」と思いを巡らせる。
ロシアで秋田犬を見かけたことがある。別の秋田犬を贈呈するため、18年にロシア南東端のウラジオストクを訪れたときのことで、毛並みの美しい秋田犬を連れて街中を散歩する人の姿が印象に残ったという。
ただ、テレビなどでゆめの映像が流れる機会は減り、5年以上「見た記憶がない」という。元気なら今年で11歳で、犬としては高齢期を迎える。畠山さんは「秋田犬の寿命は14、15年。ゆめを見たい。早く戦争が終わり、元気なうちに姿を見せてほしい」と話す。
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世界的に人気のある秋田犬はさまざまな国で飼われている。
秋田犬保存会事務局長の庄司有希さん(32)によると、秋田犬を飼う人による保存会の支部は海外に21あり、ロシア、ウクライナ両国内にも設けられている。
海外支部が支部展を開催する際は、日本人の審査員を派遣してほしいと要請が入るといい、ロシア支部展には20年に審査員を送ったことがある。しかし、現在、ロシア側との交流はストップしたままだ。
出口の見えない侵略行為が続く中でも、保存会は海外で今後、支部展が開かれることを想定し、日本から派遣できる審査員を確保しようと準備を続けている。庄司さんはロシア、ウクライナなど海外の秋田犬ファンが集う場が戻ってきてほしいと願っている。「言葉が違っても、秋田犬を通じて、気持ちをつなぐことができるはずだ」