尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領率いる韓国政府が、いわゆる「元徴用工」に関する「解決策」を正式に発表したことは、日本が示したガイドラインに沿うかたちでの、韓国の「独り相撲」の幕引きを意味する。
日韓外交当局者の折衝は、どれほどあったことか。それにもかかわらず、韓国政府は「合意案」とせず、「解決策」(=韓国の表現では『解法』)とした。このこと自体、「独り相撲」だったこと、つまり「本質は韓国の国内問題」であることを認めたためだ。
日本のかねてからの指摘を韓国側が受け入れたわけだが、これをもって「日本の勝利」とは言えない。日本のガイドラインは、肝心の部分で〝ユルフン〟だったからだ。
最も大きな問題は、韓国の裁判所が日本企業に課した債務を「肩代わり(代位弁済)」する財団が、将来、日本企業に求償権を行使しない保証があるのかどうか、明確でない点だ。
「肩代わり」支払いが終わったら、差し押さえられている株式や商標権は、日本企業の手に戻るのか、それとも財団の所有物になるのか、「解決策」全文を見ても載っていない。
そもそも、日本企業の「肩代わり」というところから間違っている。
韓国の歴代政権が支払うべきだった補償金の〝つけ払い〟なのだ。請求権資金で設立された韓国最大の鉄鋼メーカー「ポスコ」などの韓国企業が〝つけ払い財団〟に寄付するのは、歴史的経緯からして当然のことだ。
1965年の日韓経済協力協定に基づき、「南北朝鮮を代表する国家」としての韓国に一括供与した資金には、朝鮮半島出身の労働者に対する未払い賃金分も算入されていたのだから。
日韓外交当局者の4年に及ぶ折衝により、こうした歴史事実への認識が韓国の国民の間に広まったとは思えない。多くの韓国マスコミは「日本は65年協定で『すべて解決済み』としている」と、日本の独善性を際立たすような報道を重ねた。しかし、日本がなぜ、そう主張しているかについてはスルーを決め込んでいる。
なぜ、65年協定で「解決済み」なのか、その理由を理解しなければ、ポスコなどの寄付が当然であることも分からない。
分からなければ、いつまた次の「独り相撲」が始まるか、知れたものではない。日本の外交当局が、65年協定の意味を韓国人、とりわけ韓国の若い報道関係者に知らせる努力を怠ってきたことは大きな罪だ。
2月15日発行の本欄でも触れたが、日本人なら「名を捨てて実を取る」ところを、韓国人はしばしば「実を捨てて名を取る」。
朴振(パク・チン)外相が「解決策」を発表した直後、韓国外務省当局者は以下のようにコメントした(朝鮮日報3月6日、韓国語サイト)。
「大韓民国の高まった国格と国力にふさわしい大乗的な決断である」
「閉塞(へいそく)した日韓関係をこれ以上放置せず、葛藤と反目を越えて未来に向かう歴史的な機会の窓とする」
日本の被告企業からの出資はもちろん、日本の首相の謝罪がなくても、こう説明することで、「実より名を取り」メンツを保つのだ。
しかし、こうした口舌の術が調子に乗ると、別枠で行われる「未来の世代に対する出資」についても、「日本は、経団連の名前を借りて、事実上の賠償金を払ったのだ」と宣伝されかねない危うさがある。
「約束は守らなくてはならない」という意識がない国に対しては、常なる警戒と牽制(けんせい)を怠ってはならない。 (室谷克実)