障害や認知症で判断力が十分でない人の財産管理や意思決定を支援する「成年後見制度」で、本人の財産から後見人に支払われる報酬の見直しが進んでいる。従来は本人の財産額などを考慮して家庭裁判所が報酬を決定していたが、「後見人の実際の業務量に見合っていない」といった批判もあった。最高裁は業務の量や負担に応じた金額となるよう、各地の家裁に検討を促した。より実情に即した報酬となれば、制度の利用促進にもつながりそうだ。(滝口亜希)
■月2万円基本、財産額に応じ…
成年後見人は、申し立てを受けた家裁が親族や弁護士などから選任。後見人は本人が所有する不動産や預貯金の「財産管理」や、身の周りの世話のために介護サービスや施設への入所に関する契約などを結ぶ「身上監護」を行う。後見人の報酬額は家裁が決定し、本人の財産から支払われる。
報酬額に一律の基準はないが、東京、大阪家裁などは「報酬額のめやす」を公表している。それによると基本報酬は月額2万円だが、管理する財産が「1千万円超~5千万円以下」の場合は月額3万~4万円、「5千万円超」の場合は月額5万~6万円と、財産額に応じて高額になる。
ただ、実際には管理する財産がそれほど多くなくても、福祉サービスの締結や居住環境の整備を必要としたり、親族間に財産管理をめぐる対立があったりするなど、後見人の業務量が多いケースもあり、弁護士などからは「報酬額に実際の業務量が反映されていない」との指摘が出ていた。
こうした状況を受け、最高裁は1月24日付の通知で、全国の家裁に報酬について議論するための「たたき台」として資料を提示。この中で最高裁は「後見業務に応じた報酬にする」という基本的な方向性を前提に、「預貯金口座が多数ある場合は増額」「所有不動産の売却が困難な場合は増額」「後見人の報告書提出が遅れた場合は減額」などと報酬が増減する参考要素を示し、検討を促した。
現在、各家裁で検討が進められているが、今後も、個別事例の最終的な報酬額は、算定方法についての議論の結果を参考に各裁判官が判断する。
■親族から選任、運用拡大図る
成年後見制度をめぐっては、後見人となった親族による不正が相次いだことなどを受けて、弁護士など専門職の選任が進められてきた。ただ、最高裁は今後、親族に適任者がいると判断されるケースについては、より身近な親族後見人の選任を進めることで、利用者がメリットを感じられる運用を目指したい考えだ。
成年後見人は親族からも選任することができるが、親族が本人の預貯金を使い込むなどの不正が後を絶たず、専門職後見人の選任が広がっていた。
最高裁によると、成年後見制度(後見、保佐、補助、任意後見)の利用者数は平成30年12月末時点で21万8142人で、うち16万9583人が後見だった。
30年でみると、親族以外が後見人などに選ばれたケースは全体の約76・8%で、親族の約23・2%を大きく上回っている。一方、制度の利用者や親族からは「見知らぬ専門職に高い報酬を支払っている」との反発や、「身近な親族の方が本人のニーズをくみ取りやすい」といった要望も根強かった。
最高裁は1月24日付の通知で各家裁に「後見人等の選任イメージ」を提示。利用者本人のニーズを確認した上で、親族内に後見人候補者がいる▽不正行為のリスクが低い▽利用者本人が専門性の高い課題を抱えていないーなどの条件を満たした場合は、親族から後見人を選ぶことが望ましいとした。
政府は29年に定めた成年後見の利用促進基本計画で、令和3年度にかけて市区町村に利用者や後見人に対し相談・支援を行う「中核機関」を設置するとしている。個別事案で実際に誰を後見人に選ぶかは各裁判官が判断することになるが、最高裁は、中核機関の支援があり適切に事務が行えると判断される場合には親族後見人を選任し、中核機関の整備が進んでいない地域でも必要に応じて専門職を後見監督人とすることで、親族が後見人となることができると想定している。
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■成年後見制度 認知症や精神障害、知的障害など判断力が不十分な人を支援するために、弁護士や福祉関係者、親族などが財産管理や福祉サービスの手続きなどをする制度。本人の判断能力が低い順に後見、保佐、補助の3類型がある。本人や家族らが利用を申し立て、家庭裁判所が後見人らを選任する。