自衛隊に与えよ「栄誉と報酬」 隊舎で請求〝理不尽な負担〟 職務上やむを得ず居住し生活も電気代自腹 テレビ持たない隊員にNHK受信料…自衛官が働ける環境を整えよ

自衛隊に入隊すると衣食住は無料だと多くの人が想像しているようだが、それは誤解だ。実際には、さまざまなかたちで隊員たちにも〝理不尽な負担〟がのしかかっている。
写真は、ある駐屯地で隊員に発行された個人消費電気代請求書だ。個人が持ち込んだ電気ポットやテレビなどの名前が並び、詳細に電気代が計算されている。
これが、個人で住む賃貸や家で使用した電気代であれば問題ない。しかし、今回隊員に請求された電気代は、職務上やむを得ず駐屯地内に居住し、生活をするため使用した電気代だ。この違いを分かってほしいと思う。
すべての自衛隊員は職務のために集団生活を強いられることがある。入隊後、しばらくは隊舎という宿舎で集団生活をする教育隊に配属される。自分の私物はロッカーの小さなスペースだけ。就寝直前の時間まで制服や作業服にアイロンをかけ、明日に必要なものを準備し、座学(教育)内容を復習する時間に費やされる。
教育隊を離れて配属が決まればようやく、部隊の許可を得てベッド周りにテレビやゲーム機、電気ポットなどの小さな家電を持ち込める。平時は課業時間が終われば、テレビやゲームに興じる自由時間もあり、女性隊員はエステスチーマーやヘアドライヤーなども所持できる。
これは確かに私的利用だが、その自由時間も隊員たちは営内に職務命令で拘束されている。自衛隊は、非常時に速やかに対処できるように、常に基地や駐屯地の機能を維持できる一定数の隊員を待機させる目的で、そこに居住させている。そういった職務の面もあるにもかかわらず、そのわずかな休息の湯茶やテレビといった電気代すら自腹負担を強いる。
一般企業でも、客人にお茶を出すために、電気ポットやコーヒーメーカーがある。それで社員が自分のお茶やコーヒーを飲んだとして、社員にその電気代を請求するだろうか? 自分用の茶葉を持ち込んだ場合も、湯茶に係る電気代程度は福利厚生と考える企業がほとんどだろう。
隊舎では、さらにおかしなことが起こっている。
テレビを持たない隊員が、NHK受信料を集金されたというのだ。電話にワンセグ機能もなく、「NHK視聴が不可能だ」と説明しても支払いは免除されないという。「私用電気代請求はまだ理解できますが、視聴しないNHK受信料まで払うのは納得がいかない」と自衛隊員は嘆く。
「そんな些末な電気代請求をするのは一部に過ぎない」という意見もあるが、非公式な集金であればさらに問題は深刻だ。隊員への金品請求と支払いに調査が必要だ。
自衛隊は、職務に従事する隊員の福利厚生意識が低い。人員不足が問題視されているが、まずは隊員たちが余計な負担を強いられず、働ける環境を整えることが重要だ。
■小笠原理恵(おがさわら・りえ) 国防ジャーナリスト。1964年、香川県生まれ。関西外国語大学卒。広告代理店勤務を経て、フリーライターとして活動。自衛隊の待遇問題を考える「自衛官守る会」代表。現在、「月刊Hanadaプラス」で連載中。2022年、第15回「真の近現代史観」懸賞論文で、「ウクライナの先にあるもの~日本は『その時』に備えることができるのか~」で、最優秀藤誠志賞を受賞。著書に『自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う』(扶桑社新書)。