漁業に支障・津波被害拡大の恐れ
漁船やプレジャーボートが港に長期間置かれたままになる「放置船」問題が、自治体を悩ませている。漁業に支障が出るほか、津波で押し流されて被害を広げる恐れもある。東日本大震災の後、国は「放置船ゼロ」の目標を掲げたが、期限とした今年度末での達成は困難な状況だ。(中村直人)
沖縄県糸満市の糸満漁港。東シナ海を望む港の一角に、「警告書」が貼られた船が並ぶ。その数、およそ10隻。県から移動、撤去を求められている放置船だ。
船体には穴が開き、 操舵 (そうだ)室も破損するなど、長期間使われていないことは明らか。船内に水がたまり、ゴミが異臭を放つ船まである。
沖縄県によると、昨年10月現在、県内87漁港で確認された放置船は879隻。離島だけで約6割の539隻に上る。
なぜ船が放置されるのか。糸満漁業協同組合によると、所有者の引退や死亡をきっかけに管理が滞り、放置船となるケースが多いという。所有者が組合員であれば、本人や遺族に処分を求めるが、処分費用や相続放棄を理由に対応を拒まれることもある。
係留した状態で放置されると、台風で沖に流されかねない。そのため、一部は陸揚げするが、このままでは現役の漁船を避難させるスペースがなくなる。同漁協総務課の具志嘉之・課長代理は「放置船のために漁業者の船を守れなくなるとは……」と漏らす。
陸揚げされた放置船の数十メートル先には、マンションなどが立ち並ぶ。2011年の東日本大震災では、船が津波に押し流されて陸地に乗り上げ、漂流中に燃えて津波火災の一因にもなった。近くの70歳代男性は「自宅を直撃したり、復旧の足かせになったりしないか心配だ」と表情を曇らせた。
漁業者の高齢化に加え、バブル経済期に増加したプレジャーボートがその後に放置されるなどして、問題が広がった。東日本大震災の影響もあり、13年に国は、22年度末までに放置船をゼロとする目標を掲げた。
しかし、4年ごとに国土交通省や水産庁が行う実態調査では、全国の漁港や港湾、河川の放置船は18年現在で、約7万隻に上った。その後、減少傾向にあるとされるが、目標達成は厳しい。
港湾法と漁港漁場整備法では、自治体など港の管理者は、港湾や漁港内に「放置等禁止区域」を指定し、監督処分として撤去命令を出すことが可能だ。違反した所有者らには、1年以下の懲役か罰金が科せられる。
ただ、個人の財産である船を行政が一方的に処分はできず、訪問や電話などで行政指導を行うのが先決だ。この段階で多くの所有者が撤去するが、応じなければ行政代執行などに移行する。その費用は所有者負担が原則だが、回収の見込みは薄いとされる。
自治体も手をこまねいてはいない。全国ワーストの約1万1000隻の放置船を抱える広島県は、プレジャーボートの適正保管を促す条例を改正。4月から全ての所有者に、保管場所の県への届け出が義務化される。5月に広島市で先進7か国首脳会議(G7サミット)があり、テロ対策や景観保護の必要もあって、同市の広島港を中心に、海上保安部と連携して監視の目を強めている。
大分県は独自に「適正化推進区域」を指定し、放置船への指導を徹底。新たに確保した係留場所への誘導も進めて、18年時点で約4200隻あった放置船は、すでに9割以上が解消した。沖縄県は出先機関に放置船の見回りなどに当たる嘱託職員を各1~2人置き、さらなる増員も検討している。
一般財団法人・漁港漁場漁村総合研究所(東京)の浪川珠乃・上級研究員は「所有者への連絡や指導がすぐに可能となるよう、管理者が船舶情報を把握できる仕組みを作ることが望ましい」としている。
1500万かけ処分した例も
船の処分には高額な費用がかかり、船が放置される要因にもなっている。
船を廃棄する方法は大きく二つ。産廃処分業者に依頼する方法と、繊維強化プラスチック(FRP)製の船向けのリサイクルシステムを利用する方法がある。
多くの場合、費用は数十万円ほどだ。しかし、配管や燃料タンクにアスベスト(石綿)など有害物質が残っていると、その処理コストが上乗せされる。自力航行できない船を運ぶ場合などにも費用がかさみ、総額が数倍に膨れ上がるケースもある。
船に財産価値がなければ、港の管理者の権限で廃棄することもできるが、船が大きいと費用も高額だ。沖縄県では、全長約20メートルの大型船を約1500万円かけて処分した例もある。