【注目の人 直撃インタビュー】
五野井郁夫(高千穂大経営学部教授)
統一地方選の幕が上がり、岸田政権に中間評価を下す衆参5補選の同時実施が迫る中、上梓された「山上徹也と日本の『失われた30年』」が話題だ。昨夏の参院選の最中に噴き出した自民党と旧統一教会(現・世界平和統一家庭連合)との癒着はいまだ解明されていない。憲政史上最長政権を率いた元首相はなぜ銃口を向けられたのか。山上徹也被告の全ツイートを言説分析し、事件の背景に迫ったのが著者のひとりである政治学者・五野井郁夫氏だ。被告と同世代、宗教2世の共通点を持つ。何が読み解けたのか、聞いた。
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──被告のものとみられるツイッターアカウント「silenthill333」は、事件発生8日前まで992日にわたり、1364件(リツイートを含む)のツイートをしていました。なぜ言説分析を試みたのですか。
事件の第一報に触れた時に、映画「ジョーカー」型の犯罪ではないか、という直感があったんです。社会的、あるいは経済的に追い詰められ、何も失うものがない「無敵の人」による犯行ではないかと。取り掛かるきっかけになったのは、共著者の池田香代子さんとの対談、それに成蹊大の伊藤昌亮教授が事件発生からおよそ1カ月後に発表した調査です。被告のツイート1147件(リツイートは除外)を統計的手法で分析し、頻出語をカウント。「憎悪度」「嘲笑度」を抽出したところ、「安倍」「統一教会」などよりも「女」「差別」などの出現率が高かった。伊藤教授の分析によって、被告の観念の連合のようなものがあぶり出されたのです。そこからもう一歩踏み込んで、なぜ被告はその言葉に思いを込めたのか、なぜその言葉を使わざるを得なかったのか。旧統一教会に対する恨みだけではない、宗教2世が抱える苦しみだけでもない、元首相に対する失望だけでもない。もっともっとドロッとしたものが見えてくるんじゃないかと考えた。言説分析は本人の悩みをすくいあげる有用な方法なのです。
──どんなものが見えましたか。
ツイートを通じて浮き彫りになったのは、「失われた30年」がこの国にもたらした宿痾です。被告でなくても、誰かが暴発する可能性はあった。被告の場合は旧統一教会が引き金になりましたが、そうではない動機で凶行に走るパーソナリティーがあちらこちらに潜在し、ちょっと針でつついただけで破裂しそうな何かがこの社会にはあるのではないか。現代日本の世代論に思い至りました。
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