「『ああ言えばこう言う』という状況が続いている」――。
静岡県内におけるリニア中央新幹線の工事をめぐる県とJR東海の協議について、静岡県島田市の染谷絹代市長が苦言を呈した。
リニアは南アルプスの地中を走る。静岡県内に駅は設けられず素通りするのみだ。このため、リニアが開通しても県が恩恵を受けることはない。逆に、もしトンネル工事中に大量の湧水が発生して大井川の水量が減るような事態になると、中下流域の利水者の生活を脅かしかねない。メリットはないのにリスクはある。その意味で、大井川流域の関係者がリニア工事に慎重な態度を取るのはもっともだ。
県とJR東海はトンネル工事中に県外流出する湧水の全量を大井川に戻すことで合意している。しかし、全量を戻すための設備が完成するまでの期間は湧水の県外流出が避けられない。県はその流出分についても大井川に戻せとJR東海に迫っている。
大井川流域市町はどう考えているか
国は有識者会議を開催して、科学的・工学的な見地からリニア工事が大井川の水資源に与える影響について協議を重ねた。そして、想定される流出水量は大井川の1年間の水の量に対してごくわずかにすぎないことや、トンネル湧水の全量を戻すことで中下流域の河川流量は維持されるという報告を2021年12月にまとめた。
有識者会議では、JR東海は湧水が県外に流出することのリスク対策として「高速長尺先進ボーリング」による調査の意向を示している。一般的なボーリング調査では掘削現場の先端から100m程度先の地質や湧水を確認するが、高速長尺先進ボーリングは1000m先まで調査可能。湧水の量や水圧などの情報を一般的なボーリング調査よりも事前に把握できることで、より確実なリスク対策となる。
しかし、県は工事中のトンネル湧水の全量の戻し方について解決策が示されていないとして、依然として工事着工を認めていない。
これまで、大井川流域の関係者たちはJR東海と直接的な交渉はしていない。流域8市2町の首長や利水者および県が大井川利水関係協議会を設立し、県が窓口となってJR東海と交渉している。だが、議論がなかなか前に進まない事態を重く見た流域市町の首長たちはJR東海や国の意見を直接聞いてみたいと言い出した。
2022年12月3日、国の有識者会議の委員4人と大井川流域市町の首長の意見交換会が島田市内で行われた。会議の場では中間報告に関する意見交換のほか、高速長尺先進ボーリングの話題も出た。JR東海には山梨工区で山梨側から静岡側に向かって高速長尺先進ボーリングによる調査を行う計画がある。会議後の囲み取材で、島田市長は、「出席した首長はおおかた調査をやったほうがいいのではという意見だった」と話した。
静岡の水か山梨の水か