国の特別天然記念物マリモで知られる釧路市の阿寒湖や周辺の湖沼について、釧路国際ウェットランドセンターなどの研究グループは、数千年から数万年をかけて湖沼が年を取る「生態遷移」の過程を見られる世界でもまれな環境であることを論文にまとめ、海外の学術誌に発表した。関係者は阿寒湖周辺の環境の希少性を裏付けるものとして、世界自然遺産登録に向けた大きな一歩と期待している。
湖沼は本来、長い時間をかけて水質が富栄養化し、植生も変化してやがて湿地になっていく。この現象が生態遷移と呼ばれ、人間で言う青年期から老年期に至る過程になぞらえられる。
阿寒湖など10か所の湖沼群は元々一つのカルデラ湖が雄阿寒岳の噴火によって分断され形成されたが、数千年を経て湖沼ごとに水質や生物の組み合わせが変化し、多様な生態系を生み出している。研究チームは10か所の水質、水草の構成を調査して湖沼の規模などを組み合わせて分析。できた時期や成り立ちは大きな違いがないのに、湖沼の規模が小さく流れ込む川の流域面積が広いほど水質の富栄養化が進んだ「老いた」状態となり、繁殖する水草もそれに応じて変化していることがわかった。
湖沼の経年変化を観察するには長い年月を要するほか、通常は開発などによって水質が変わってしまうため困難とされる。阿寒湖周辺はカルデラ湖が分断されて以降も自然がほぼ手つかずで残されてきたため、研究グループでは「湖沼の生物などを比較することで生態遷移の過程を『見える化』できる世界でも貴重な標本庫と言える」としている。
阿寒湖をめぐっては、釧路市が2012年から世界自然遺産への登録を目指しており、希少性などを裏付ける研究結果が必要とされていた。同センター阿寒湖沼群・マリモ研究室の若菜勇室長は「湖沼の生態遷移は近年ほとんど研究されておらず、発表まで長い時間を要した。今後は科学的根拠に基づいて登録を目指す活動を推し進められると期待している」と話している。同市の蝦名大也市長は「世界遺産登録に向けた大きな前進だ」としている。
論文は同センター、神戸大、東北大などの研究グループがオランダの陸水・海洋生物学の専門誌「ハイドロバイオロジア」(電子版)で発表。市は近く日本語訳版をホームページで公表する予定という。