少し前、岸田首相が日本テレビ「世界一受けたい授業」に出演した。広島サミットのPR目的だったが、番組の中では「官邸の幽霊の噂」について答える場面があった。首相は「しばらくオドオドして生活してました。ですが今のところ幽霊には会っておりません」と説明していた(スポニチ5月13日)。
ところが、やはり出たのである。
『階段に寝そべり、総理会見ごっこ 岸田一族「首相公邸」大ハシャギ写真』(週刊文春 2023年6月1日号)
幽霊ではなくドラ息子が出た。岸田首相の長男で首相秘書官の翔太郎氏が首相公邸で親族と忘年会を開いていたのだ。
旧官邸が現在の首相公邸なのだが、組閣時の記念撮影でおなじみの階段で一族で撮影していたり(センターは翔太郎氏)、階段で寝そべってアイスを食べていた首相の甥の写真もあった。怪談ならぬ階段づくし。
こんなバカ騒ぎをしていたら幽霊だって出られないに決まってる。
公私混同からの説明軽視
それにしてもまた出た。今年1月には翔太郎氏の観光疑惑があった。首相の欧米歴訪に同行した際、公用車を使って名所めぐりやショッピングをしていたことが報道された。そしてサミット直後の今回は公邸での大ハシャギ写真が報道された。翔太郎氏の勢いがすごい。必勝しゃもじでも持っているのだろうか(※昨夜6月1日付で辞職を表明との報)。
呆れてしまうネタだが大事なキーワードもある。「公私混同」からの「説明軽視」である。1月の翔太郎氏の観光疑惑の際の写真は「対外発信用に外観を撮影」と政府は説明したが、
《写真はその後、使われた形跡がない。朝日新聞の情報公開請求に対しては、行政文書に当たらないので保存していないとして、3月に「不開示」決定がなされた。これでは、とてもその言い分を信じるわけにはいかない。》(朝日新聞5月28日社説)
永田町では「異次元の親ばか」という声も
そして今回の公私混同報道。岸田首相は息子の更迭をすばやく否定した。異次元アピールが好きな首相だが「異次元のドラ息子」というキャッチフレーズが浮かんだ。永田町では「異次元の親ばか」という声も出ているという(TBSニュース5月26日)。
一見するとくだらない話題にみえるが、こういう説明軽視の態度は他の大事な政策にも通じていることがわかる。神は細部に宿る。
振り返れば前首相の菅義偉氏にも公私混同問題があった。
《総務大臣就任時(06年)、バンドマンで無職の長男を大臣秘書官として抜擢し、多数の総務官僚との接点を持たせた後、総務省の許認可先への就職を許した。》(週刊文春2021年2月25日号)
野心的な菅氏、お気楽な岸田一族
このあとに長男による総務官僚接待問題が出て公私混同と批判を生んだ。さらに弟の話題も。菅氏の弟はかつて自己破産した直後にJR東日本の子会社に幹部として入社しているが、異例の入社を遂げた背景には、菅義偉氏と同社の蜜月関係があったことが、ノンフィクション作家・森功氏の取材で分かったというのだ。
※『菅首相と慶應卒弟のJR“既得権益”』(文藝春秋2020年12月号) https://bunshun.jp/bungeishunju/articles/h1824
こうしてみると菅氏の場合は同じ公私混同でも自覚的で野心的なことがわかる。それに対し、世襲で政治を継いでいる岸田一族の場合は観光とか忘年会とか脱力するほどの無自覚さであることがわかる。どちらの公私混同も酷いが、菅氏は叩き上げのえげつなさや必死さが伝わってくるのに対して、岸田一族は世襲のお気楽さが漂う。公私混同の形もいろいろなのである。
安倍元首相も「公私混同」
そういえば、
《15年には安倍元首相が音楽プロデューサーの秋元康氏や幻冬舎社長の見城徹氏ら「アベ友」5人を秘密裏に公邸に招き、西階段で現職の安倍中心に5人が囲んで撮影した“組閣ごっこ”写真が流出。フライデーに報じられた。》(日刊ゲンダイ5月26日)
安倍政権では桜を見る会の運営問題もあった。安倍→菅→岸田と3代続けて首相の公私混同が日常になっている。
では今回の件の新聞報道で目についたものを紹介していこう。
バイト感覚ゆえの「やらかし」か
《アルバイトの職場で悪ふざけする動画をインターネットで公開し、炎上する「バイトテロ」。公邸で悪ふざけしていた翔太郎氏も、世襲が済むまでのバイト感覚だから、こんなことをしたのかもしれない。ただ、普通ならバイトテロの代償は解雇、損害賠償請求など非常に重いのだが。》(東京新聞5月27日「こちら特報部」デスクメモ)
ここでも世襲というキーワードが。同じやらかしでも翔太郎氏とバイトテロとの格差が気になる。
毎日新聞の専門編集委員・伊藤智永氏のコラムは『広島サミット再論』(5月27日)だった。
《長男の首相秘書官が公邸で将来の「組閣ごっこ」に興じたのは、防衛大増税を閣議決定した1週間後。やはり広島ブランドで議員になる気だろう。》
「広島ブランド」を巧妙に利用?
ここで注目したのは広島ブランドという言葉。文中で著者は「戦争を論じるように原爆は論じられない。原爆を戦争と同列に語るな」と語り、
《岸田文雄首相に「逃げるんですか」と広島開催の欺まんを問う記者がいた。首相も核抑止と廃絶を併記したご都合主義を自覚しているから振り返ったのに違いない。》
読んでいてハッとした。
広島サミットは成功して支持率も上昇というニュースもあったのだけれど、岸田首相はサミットを成功させるために広島ブランドを巧妙に使ったのでは? という行間も感じたからだ。
確かに地元では被爆者などからサミットの「成果」に批判的な声も少なくなかった。地元の中国新聞は「(筆者注:核の)保有国や米国の傘の下にいる同盟国の立場を肯定し、忖度するような記述には目新しさもない」と、広島ビジョンの内容の物足りなさを指摘した(5月21日)。
しかし、サミット終了直後から東京発の全国紙政治面では「支持率上昇で解散総選挙は早い?」という観測記事があふれ始めた。
公私混同が問われる岸田政権だが、広島ブランドを使ったサミットこそが首相による最大の公私混同だったのだろうか?
(プチ鹿島)