障害者や難病のハンディを抱えた人との共生社会の実現に向け、世の中は動き始めている。だが、周囲に理解されず生きづらさに悩む実情をどれだけの人が理解しているだろうか。さまざまな生きづらさが渦巻くなか、認知を広げるべく当事者の声を聞いた。 ◆「化学物質過敏症」些細な匂いで頭痛に。怖くて外に出られない 文明社会を覆い包む化学物質で、生活がままならない人がいる。関東地方に住む事務職の矢沢芳江さん(仮名・34歳)は1年半前に化学物質過敏症と診断され、現在まで会社を休職している。 「7~8年前から、隣のデスクの喫煙社員の衣服についたタバコの臭いで頭痛に襲われるようになりました」 矢沢さんの体のセンサーはどんどん鋭敏化していった。数メートル離れた喫煙者の臭いでめまいが生じるようになり、会議室の残り香にも耐えられない。頭がふらふらして机に顔を突っ伏したり、自分で何を話しているかわからなくなったり、記憶が飛んだりする症状が急加速していった。 ◆1か月半、家から一歩も出られないことも 「タバコアレルギーや貧血なのかと思いましたが、ツイッターでこの病気を知って、専門医で診断が下りました。排ガスや人工香料の柔軟剤にも反応するようになり、洗剤関連はすべて無添加に替えました。外に出ることも難しくなり、酷いときは1か月半も家から一歩も出られませんでした」 今でも通院で月1、2回外出する程度で、コロナ禍が明けても、マスクが手放せない。“コロナ脳”と揶揄されそうで人目も気になるという。 ◆婚活もしたいのに…。生きている意味がわからなくなる 「友達にも気軽に会えないし、婚活もしたいのに……。外に出られず家にこもりっきりで孤独を感じます。 会社復帰も難しそうなので、完全リモートの職場に転職するしかありません。大好きな旅行にも行けないし、生きている意味がわからなくなります。どうか強い柔軟剤や香水で苦しむ人がいることを知っててほしい。路上喫煙は絶対にやめてほしいです」 強く訴えた矢沢さんの願いに、耳を傾けたい。 化学物質過敏症:極めて微細な化学物質を自らの許容量を超えて浴びることで、頭痛やかゆみ、疲労感、嗅覚過敏や疲労感といった症状を催す症候群。治療法が確立されておらず、原因となる化学物質から身を遠ざけることが最も有効とされる。 取材・文/週刊SPA!編集部 ―[新型「生きづらい病」当事者の本音]―