令和元年7月の京都アニメーション放火殺人事件で殺人罪などに問われた青葉真司被告(45)の裁判員裁判の審理は、最大の争点である刑事責任能力に移行した。26日午前10時半から京都地裁で開かれる第14回公判では、被告の起訴後に責任能力を調べるための精神鑑定を行った医師の証人尋問が予定されている。23日の前回公判では別の鑑定医が法廷に立った。他責傾向と自尊心、そして攻撃性。鑑定医が明かした被告の性格傾向とは。
23日に尋問が行われたのは、検察からの依頼で起訴前に精神鑑定をした大阪赤十字病院の和田央(ひさし)医師。冒頭、法廷内のスクリーンを使い、自ら鑑定内容を説明した。
20回以上の面談を経て被告を「妄想性パーソナリティー障害」と診断した和田氏。動機形成には妄想が影響を及ぼしたとしつつも、犯行への影響は「ほとんど認められない」との見解を示した。
和田氏は被告の性格も分析した。両親の離婚や父親からの虐待、アルバイト先での理不尽。自分ではどうにもならない経験が「被告の性格形成に影響を及ぼした」。その結果、①何かあると他人のせいにする「極端な他責傾向」②自分が特別だと思う「誇大な自尊心」③やられたらやり返す「攻撃的態度」-につながったと指摘した。
その上で被告の妄想について「行動の結果、後付け的に生じている」とも断じた。
「闇の人物」に責任転嫁
被告はこれまで、法廷で何度も「闇の人物」に言及。京アニの小説コンクールに応募した作品の落選に関与したと主張し、放火事件そのものは闇の人物へのメッセージだったとも訴えている。
和田氏は一連の発言について、被告が持つ、闇の人物への印象はコンクール落選を機にネガティブに変化したと考察。小説の落選を闇の人物に責任転嫁した上で「自尊心の充足のため被害的な妄想に変化している」。また闇の人物に関する妄想が、被告の行動に影響したとは認められないと明言した。
犯行前のためらい、どう判断
和田氏の尋問に先立ち23日の公判で検察側と弁護側は、9月の初公判に続く2回目の冒頭陳述を行った。
検察側は被告の計画や行動は合理的で妄想の影響はなく、犯行は被告の判断で行われたとして「完全責任能力がある」と指摘。被告はこれまでの公判で、放火直前に約10分間、第1スタジオ近くの路地で頭を抱え実行を逡巡(しゅんじゅん)したと明かし、「良心の呵責(かしゃく)があった」と述べていた。検察側はこうした経緯を踏まえ「犯行前にどれだけ思いとどまろうとしたかは極めて大きな判断材料だ」と投げかけた。
一方、精神障害の影響による心神喪失や心神耗弱を訴えている弁護側は被告の責任能力の有無について明確な主張はしなかったものの、裁判官と裁判員に慎重な判断を求めた。