「今は何をやっても裏目」内閣支持率10ポイント以上急落の衝撃 JNN世論調査解説

JNNが行った最新の世論調査で岸田内閣の支持率が先月の調査から10ポイント以上、下落。政権発足後、初めて30%を切り、過去最低となった。11月2日に経済対策をとりまとめた直後の調査なだけに永田町では「相当な危険水域」だと衝撃が走っている。なぜ支持率はここまで急落したのか。
「経済対策」取りまとめ直後に「29.1%」政権交代後最低に
11月4日、5日に実施したJNN世論調査で岸田内閣を「支持する」と答えた人は前回の調査から10.5ポイント下落し、29.1%と過去最大の下落で、政権発足後過去最低となった。「支持できない」という人も68.4%で過去最高だった。
JNN世論調査は2018年10月から調査方法を変更したため単純に比較できないが、30%を切ったのは、2012年12月に自民党が政権に復帰して以降、最低である。
例えば、第2次安倍内閣の最低支持率は、コロナ禍の35.4%(20年8月調査)、菅前内閣は、政権末期の21年8月の32.6%だった(翌9月に退陣表明)。ともにコロナ政策で評価を落としたことが主な要因だった。
最近30%を切った例は、2012年11月の民主党・野田政権の末期で25.2%、自民党政権では世界金融危機の対応などで支持を落とした2008年12月の麻生内閣(23.9%)まで遡る。今回はおよそ15年ぶりの低水準となった。
不評を買った経済対策「期待しない」72% 橋本政権の「減税」のときは?
今回永田町でこの調査が驚きを持って受け止められた理由は、11月2日に政府がまとめた「経済対策」の直後の調査での急落だったことだ。
岸田総理は、今回の経済対策に「デフレに後戻りしないための一時的な措置」として、所得税3万円と住民税1万円、あわせて4万円の定額減税などを盛り込んだが、これを「評価しない」人が6割以上にのぼり、「経済対策」全体を「期待しない」人は7割以上に及んだ。
とくに、所得税などの「減税政策」をめぐっては、「自民党支持層」でも半数以上が評価していない。
年齢別ではとくに40~60代の男性の7割以上、50代男性は8割以上が評価していない。
歴代政権を振り返ってみると、同じように減税政策を行ったのは橋本龍太郎総理だ。アジア通貨危機や山一証券の破綻が起きた1997年末に2兆円の特別減税を表明し、翌1998年2月から特別減税をスピード実施している。その直後の、3月のJNN世論調査ではこれまで下降傾向だった内閣支持率が一時的に上昇している(2月36.7%→3月39.1%)。ただその後、減税の恒久化を巡って橋本総理の発言がぶれ、98年の参院選で惨敗し、退陣に追い込まれた。
今回、岸田総理の「減税」対策が最初から不評を買っている理由として、取材をしていて感じるのは、再来年(以降)に防衛費や少子化対策で国民負担が増えることが分かっていて、来年は「減税」することの“ちぐはぐ感”をしっかり説明できていないように感じる。さらに住民税非課税世帯に対しては「現金給付」をするという、減税と給付の混在がよりわかりにくくしている。
岸田総理は将来の国民負担について「社会保障改革を進めることで、実質的な国民負担の増加にならないよう検討する。今回の所得税減税と矛盾するものではない」と繰り返し強調しているが、額面通り受け取られていないようだ。
ある自民党幹部は「選挙目当ての減税だと裏読みされている。今は何は何をやっても全部が裏目に出る」と語る。別の自民党中堅議員は「やっていることは悪くないが、地元に帰っても選挙目当てのバラマキだと見透かされている。総理の熱意が伝わっていない、ひとえに総理の説明の仕方の問題だ」と嘆いた。
1か月で10ポイント以上の下落 過去には30ポイント近くの“大暴落”も
支持率が30%を切ったと同時に、永田町に衝撃が走ったのは、1か月の間に10ポイント以上支持率が下落したことだった。再び過去の政権を振り返ってみると、内閣支持率が前の月と比べ10ポイント以上急落することは、一内閣で、平均で1~2回はある。
2000年以降のJNN世論調査を分析すると、森喜朗総理が2000年5月に「日本は天皇を中心としている神の国」と発言し、前の月と比べ15ポイント以上下落した。
平成以来最大の「落ち幅」でいうと、小泉純一郎総理が2002年1月29日、当時人気絶頂だった田中真紀子外務大臣を更迭し、翌2月の調査で28パーセント下落したこともあった。
ただ、この表をみると、支持率急落の要因の多くは、自らの失言、身内の不祥事などが多く、政府の政策(しかも今回は減税)が不評を買うケースでの下落は珍しいことがわかる。
必要とされる経済対策は?「消費減税」が41%で最多
今回の経済対策について、岸田総理は「デフレ完全脱却のための総合経済対策」と名付け、「デフレから脱却し経済を成長経路に乗せる」ことを最優先にすると11月2日の記者会見で強調した。その「デフレに後戻りしないための一時的措置」の目玉が今回、所得税などの減税だったわけだが、その評価が良くない。
では望ましい経済対策とはなにか。JNNは今回、国民が求める「デフレに後戻りしないための一時的措置」で何が良いかを聞いた。選択肢はこれ以外でも複数あるとおもうが、予算委員会での野党の主張を総合すると、おおむね以下の5点に集約される。
結果は、「消費税の減税」がもっとも多く41%だが、岸田総理は「いまは考えていない」と繰り返し述べている。
その際、総理が毎回持ち出す常套句は「かつて社会保障と税の一体改革の議論で決まったこと」という答弁だ。2012年の野田内閣下において民主党、自民党、公明党の三党間において取り決められた合意、つまり消費税の税収は「年金、医療、介護、少子化対策」の社会保障4経費に充てるということを当時の与野党合意で決まったことだから、覆すことはできないと強調する。これにより旧民主党系の財政規律派の口を封じている。
ただ一方で、将来の消費税引き下げについては「全く今から否定するものではない」と含みも残している。
支持率「危険水域」でも“岸田おろし”の動きなし
6月に亡くなった青木幹雄元官房長官は、内閣支持率と与党第一党の政党支持率を足した数字が「50」を切れば政権が倒れるという「青木の法則」を提唱したとされる。今回のJNN世論調査で照らし合わせれば、内閣支持率「29.1」、自民支持率「26.2」で「55.3」となるので、まだ大丈夫とみるべきか、危険水域とみるべきか。いずれにせよ、この“危険水域”でも「岸田おろし」は起きそうもない。自民党の世耕弘成参院幹事長が「物価高に対応して何をやろうとしているのか、世の中に全く伝わらなかった」などと代表質問で公然と反旗を翻したが、このような身内からの反発は、広がりに欠いている。
その理由は、衆目一致する「ポスト岸田」が不在なこと、野党がまとまりに欠いていること、衆院選挙まで時間がある、ことなどだろう。この点、総裁選と衆院選挙まで時間がなかった菅前総理とは事情が異なる。
今回の世論調査の結果をみても「岸田総理にいつまで続けて欲しいか」との問いに対し、半数以上(自民党支持層では6割以上)が「来年9月の総裁任期まで」と答え、「すぐに交代して欲しい」と答えた人は全体で28%、自民支持層では15%だった。
8月にも同じ調査をしたが、「すぐに交代して欲しい」はこの3か月で微増(+5%)だった。おそらく有権者も、なかなか次の総理像を描けていないのが現実だろう。
一方、「次の総理にふさわしい人」も大きな変動はない。小泉進次郎元環境大臣、石破茂元幹事長、河野デジタル大臣の3人の“常連”は3か月前の調査と比較しても、誤差の範囲でそんなに数字に変わりない。
ただ3か月まえの調査では「その他議員」を答えた人が全体の3%だったのに対し、今回は16%に上昇していて、「次の総理」も群雄割拠の状態といえる。「それだけ自民党議員は層が厚い」と主張する人もいるが、あくまで野党と比較であって、有力な“ポスト岸田”がいないのが、与野党関係者の大方の見方だ。
このまま岸田内閣の支持率が続落するのか、まだ予断を許さないが「今は先送り出来ない課題に、一意専心取り組む」この総理の決意通り、国民が求める物価高対策やデフレ脱却、賃上げなど、結果を出さない限り支持率回復は見込めない。
TBSテレビ政治部 世論調査担当デスク 室井祐作
【調査方法】JNNではコンピュータで無作為に数字を組み合わせ、固定電話と携帯電話両方をかけて行う「RDD方式」を採用しています。11月4日(土)、5日(日)に全国18歳以上の男女2570人〔固定1014人,携帯1556人〕に調査を行い、そのうち47.2%にあたる1213人から有効な回答を得ました。その内訳は固定電話611人、携帯602人でした。インターネットによる調査は、「その分野に関心がある人」が多く回答する傾向があるため、調査結果には偏りが生じます。より「有権者の縮図」に近づけるためにもJNNでは電話による調査を実施しています。無作為に選んだ方々に対し、機械による自動音声で調査を行うのではなく、調査員が直接聞き取りを行っています。