秋田県鹿角広域行政組合消防本部所属の男性消防隊員が「タケノコ採り」の遭難者を捜索中、現場付近で制服姿のまま旬を迎えた名産品「ネマガリダケ」を採っていた。
5月18日、鹿角市十和田大湯の山林で青森県三戸町の無職、佐藤宏さん(64)の遺体が見つかった。
ツキノワグマに襲われて死亡した佐藤さんの頭や顔、首、背中、両腕にはひっかかれた傷があり、衣服には黒い体毛が付着していた。
捜索にあたっては、佐藤さんの遺体を搬送しようとした警察官2人も同日、クマに襲いかかられ、大ケガを負い、周辺一帯は11月末まで入山禁止になった。十和田大湯では2016年にも男女4人がクマに次々襲われ、死亡する事故が起きている。
佐藤さんの行方が分からなくなったのは、3日前の5月15日朝。妻と親戚の3人で現場の山林を訪れ、午前8時半ごろ、タケノコを採るため、1人で山に入った。下山予定時間を過ぎても戻ってこなかったため、妻が山の管理者に伝え、警察に通報した。
案内人、警察官、消防隊員約15人がそれぞれ態勢を整え、翌16日午前6時19分に入山して捜索を開始。同10時50分に1回目の捜索を終了し、昼食休憩に入った。問題の男性消防隊員はトイレに行く際、捜索隊の現場本部近くで、この時期に旬を迎えるネマガリダケが生えているのを見つけ、数本をビニール袋に入れて持ち帰った。
高額で取引される名産品
タケノコ採りがバレたきっかけは、ネットメディアの「現代ビジネス」の記事だった。現場にいた佐藤さんの知人の話として<捜索隊の中には、待機中にタケノコを採って袋に入れている者もいました。ヒマだったのか何なのか分かりませんが、あまり真剣に捜索しているようには見受けられませんでした。佐藤さんを捜すのではなく、なんとタケノコを探していたのです>と報じたのだ。
この記事を受け、消防本部は当日出動した7人の消防隊員に確認したところ、この男性消防隊員が「私が採りました」と申し出た。
聞き取りに対し、「昼休み中にたまたまタケノコが生えているのが目についたので、採ってしまった」と話しているという。
消防本部警防予防課担当者は「休憩中とはいえ、遭難者やご家族の心情を考えると、適切ではなかったと考えています」として、消防隊員を14日付で口頭注意した。
「ネマガリダケは細いタケノコで、標高が高いところでしか採れないため、他の山菜より高値で取引されます。シーズンは5~7月です。味は上品で香りも良く、新鮮なものは味噌をつけて生で食べられますし、天ぷらや煮物、焼き物、味噌汁にも合います。絶品です。特に十和田大湯の山林に自生するネマガリダケはあくが少なく、軟らかい。1キロ当たり2000円程度から、太くて鮮度のいいものは4000円以上で販売されることもあります。販売目的で採りに来る人もいます」(地元関係者)
偶然、旬の食材を見つけ、つい目がくらんでしまったのか。