この夏、各地でアコヤガイの大量死が見つかった。養殖真珠の生産量1~3位の愛媛、長崎、三重の各県で被害が確認された。三重では200万個超のアコヤガイが死んだといい、愛媛では稚貝の3分の2程度が死んでいるのではないかと推定された。三重県は「高水温と餌のプランクトンの減少が原因とみられる」との解析結果を公表したが、断定はされていない。危機的な状況に、愛媛県では通常は春先に生産する稚貝を秋に生産する緊急策に乗り出した。
3分の2が被害か
愛媛県沖の宇和海で異変が見つかったのは7月下旬。養殖業者から「かつてないほど貝が死んでいる」と漁協などに報告が入った。アコヤガイの養殖は海中にかごを沈めて行うため、貝の掃除などのためにかごを引き上げた際にはじめて状態が判明する。
このため、まだ大量死の全容は分かっていないというが、母貝や稚貝の斃死(へいし)の報告が同時期に相次いでおり、同県水産課は、稚貝は全体の3分の2程度が死んでいるのではないかと推定した。
アコヤガイを用いた真珠養殖では通常、春先に人工交配によって数ミリの稚貝を生産し、それを母貝養殖業者が買い取って約1年半かけて成育。育った母貝を真珠養殖業者が買って真珠の核入れを行い、さらに半年から1年半、海中の網かごで養殖する。
愛媛県は、平成29年の統計で真珠生産量が7664キロと全国の38%を占めてトップ。母貝生産でも全国の88%のシェアがあり、三重県や長崎県へも出荷している。このため今回の稚貝の大量死により、2年後の真珠生産に大きな影響が出る可能性がある。
異例の秋生産
こうした状況を深刻に受け止めた愛媛県の関係4団体は9月6日、県に支援を要請。これを受けて県は実態と原因の調査を開始するともに、県水産研究センター(同県宇和島市)で異例の稚貝の秋生産を開始した。
稚貝生産は通常、2~3月に開始し、4月に出荷する。育成の際は水温を上げる必要があるのだが、今回は秋のため、反対に冷却装置を入れて水温を25度に維持する。職員が交代で24時間態勢で張り付くことが求められ、3日に1回は水を交換するなど細心の注意を払う。同センターでは1トン水槽を2つ使い、計100万個の稚貝生産を目指すという。
このような緊急の稚貝生産は町や漁協などでも始まっているが、今回の大量死に相当する量を補給するのは難しいとの見方もある。
「赤変病」の経験
愛媛県では過去も大量死に見舞われた。8年、宇和海のほぼ全域で、貝の身が赤く変色し、萎縮して死ぬ「赤変(せきへん)病」が発生。この影響で、11年の真珠生産量は5年前と比べて81%も減少した。
この経験から、県水産研究所などは赤変病に耐性を持つ貝の人工種苗に取り組み、現在は真珠養殖に使われる貝はすべて耐性を持つ貝となった。
だが、再度の大量死が起きた。
同センターの平田伸治センター長は「遺伝子レベルで調べ、赤変病の疑いはない」と話す。しかし、8年の赤変病がスピロヘータの一種が原因菌だったとの推定が出たのはごく最近で、20年以上もかかった。
このため、三重県が「高水温と餌の植物プランクトンの減少が原因とみられる」としながらも、同センターは「今回、感染症の可能性も否定はできない」と原因特定には慎重な立場を取っているのだ。
大量死の原因は何なのか。同センターでは死んだ貝を国の水産研究・教育機構増養殖研究所(三重県)に送り、解析を依頼している。