都市部に人が集まり、郊外の人口減、高齢化が進む岡山市で、空き家の取り壊しが進んでいる。古い空き家は景観を損ねるだけでなく、強風で瓦や壁が吹き飛んで周囲に被害をもたらす恐れがある。ただ、所有者を見つけるのに時間がかかるほか、逆に相続人が多数いて利害関係の調整が難航する場合もあるという。
2年で老朽進む
水田と住宅地が混在する岡山市北区の一角。車1台がやっと通れるほどの幅の道を登ると、表面にびっしりとツタが絡まり、背後の山林と一体化したような平屋の小屋が視界に入ってきた。
うっそうとしたたたずまいで、中には椅子や誰が捨てたのか菓子類のゴミが散乱している。南側はぼろぼろに崩れかけた土塀があり、2メートル弱の歩道を挟んで崖、その下には民家があった。
周辺から市に「管理不全の空き家がある」と届けがあったのは平成29年4月。それから2年間で空き家の老朽化は進み、5段階で示される「老朽危険度」は、「管理が行き届いておらず、部分的に危険な損傷が認められる」という中程度のCから、「建物全体の危険な損傷が激しく、倒壊の危険性があると考えられる」最悪のEに“格上げ”された。強風を受ければ瓦や土塀が、崖下の民家に崩れる恐れもある。
8月20日、有識者からなる「岡山市空家等対策協議会」(会長・大森雅夫市長)が開かれ、空き家対策特別措置法に基づき、市が所有者に代わって強制撤去する「略式代執行」を行うことを決めた。費用は約200万円で公費負担で今年11月に着手する予定だ。
調査は海外へ
ところで、この空き家の処理に2年以上かかったのはどうしてだろうか。
この建物は、市の聞き取り調査によると築60年以上。登記上の家主はすでに死亡しており、相続した家主の兄は第二次世界大戦終了後に渡米しており、生きていれば146歳だが、10年に法に基づいて死亡扱いとなっている。次いで法定相続人となった兄の2人の子供も米国籍を取得しており、所在不明だ。
だが、こうした相続関係は登記されていなかったため、権利関係を突き止めるのに、市は外務省を通じた調査を実施した。市の担当者は「法律上、義務化されていない相続登記がうまくいっていないことが、時間がかかる原因のひとつだった」と説明する。
さらに、この建物の買い取り希望があったことも影響した(買い取りは条件面で折り合いが付かず頓挫)。
このケースに限らず、空き家の処理は一筋縄ではいかない。
同市東区西大寺では元洋品店の3軒長屋の空き家が通学路沿いにあり、崩壊の危険がある状態で放置されていた。市は28年度に対応するよう指導したが、権利を持つ法定相続人が計12人いたことが問題を複雑にした。弁護士が調整に入り、昨年10月にようやく撤去が完了した。
入り組んだ小道の多い同市南区妹尾にある空き家では、市が24年度に指導したものの、費用面などから所有者が解体に難色を示し、昨年、6年越しでようやく解体が実現した。
5年で空き家2千戸増
岡山市では人口が微増しているものの、これは外国人の流入に伴うもので、日本人の数は減少。中心部はマンション需要が堅調で、全体に都心回帰の傾向があり、郊外は人口減、高齢化が進んでいる。
こうした状況と比例するように、空き家は県内全体でみると25年の14万戸から、30年には14万2千戸に増加した。状態の良い空き家はリフォームで宿泊施設にする動きもあるが、一部にとどまっている。
大森市長は「どんどん問題は大きくなるだろう。大きな流れに追いついていかなくては」と危機感を募らせる。今後、協議会では、法改正を待ちつつ、代執行を行う物件を複数まとめて協議するなどスピードアップを図る方針だ。