北朝鮮による拉致被害者で、神戸市出身の有本恵子さん(行方不明時23歳)の父・有本明弘さんが96歳で亡くなった。妻嘉代子さん(2020年に94歳で死去)と政府への働きかけや講演活動などに奔走し続けた明弘さんを悼む声が相次いだ。
拉致被害者の支援団体「救う会兵庫」代表の長瀬猛県議は「先週、メンバーが自宅を訪れた際に『ご飯が食べられない』と話していたと聞き、大変心配していた。出会ってから29年たつが、しっかりした意見を持った方だった」と振り返った。そして「励まそうと、恵子さんが必ず生きていると伝えたことが時につらい思いをさせたと思うと申し訳ない」としのんだ。
明弘さんの遺族で恵子さんのきょうだい5人は神戸市内で記者会見を開いた。「父は(恵子さんと)再会を果たすことはかなわなかったが、苦しむことなく最期の日を迎えることができた」。明弘さんの長男隆史さん(62)は支援者らに感謝の意を示した。
拉致問題は02年の日朝首脳会談で北朝鮮が拉致を認め、5人が帰国した以降、目立った進展はない。
斎藤元彦知事は「面談した時、外交による拉致問題解決を強く望んでいたことが印象的だった。帰国がかなうことなく亡くなられ、大変ご無念だったと思う」と語った。
久元喜造・神戸市長は「再会がかなわなかった中でのご逝去にご遺族の無念はいかばかりかと察する。拉致問題の解決を願うとともに心より哀悼の意を表す」とのコメントを発表した。【栗田亨、山田麻未、柴山雄太】