共働き世帯の増加を受け、放課後児童クラブ(学童保育)の利用者が右肩上がりで伸びている。小学生らが放課後を過ごし、心身の成長にも大きな影響を与える場所だ。ただ、急激な需要の高まりに、受け入れる側の態勢は追いついていない。 専門家に聞くと、100人がすし詰め、職員は「スキマバイト」で募集といった信じられないような実態が浮かぶ。なぜ学童保育は過密になり、職員の待遇は改善されないのか。(共同通信=江森林太郎、禹誠美)
▽すし詰めの子どもたち
学童保育で過ごす子どもたち(記事中に出てくる「過密化」などの問題点が指摘されている学童とは別の施設です)=2024年11月、東京都内
過密化、小一の壁、ワーキングプア―。学童保育の抱える問題を巡っては、近年こうした言葉がよく聞こえてくる。
イメージが湧きやすいのが「過密化」だ。学童保育には、規模や職員体制に関する国の基準が存在する。例えば、1クラスはおおむね40人以下、過密化を防ぐため、児童1人につきおおむね1・65平方メートルと規定する。 だが国の基準は、あくまで「参考」の位置づけでしかない。地域の実情に応じて異なる内容を定めることが認められているからだ。基準を大幅に超過するすし詰めの学童があっても、容認せざるを得ない。 国の基準は、1クラスに支援員は2人以上配置、開所時間についても、平日は1日3時間以上と定める。しかし、職員の待遇に関しては規定すらない。
▽専門家はどう見る
インタビューに応じる都学童保育協会の中山勇魚副会長=2024年11月27日、東京都足立区
こうした状況を受け、学童保育の事業者でつくる団体が昨年11月、東京都に要望書を提出した。要望書をまとめた都学童保育協会の中山勇魚副会長に課題を聞いた。
Q 学童保育を巡る現状は。 A 放課後を学童保育で過ごす子どもたちが増えている。東京では国の基準を大幅に超え、子どもたちがすし詰めになっているところも少なくない。 施設側も事故が起きるといけないので、管理型の運営とならざるを得ず自由に過ごすことができなくなる。支援員が一人一人を丁寧に見ることが難しい。
Q 定員を大幅に超えて預かる施設とは。 A 国の基準では1支援単位(クラス)で40人以下が望ましいとしている。現状では100人を超えるところもあり、中には子どもたちが座ることすらできない施設もある。
Q 働いている支援員の待遇は。 A 学童保育は自治体が運営しているケースが多い。しかし十分な予算が確保されず、実際に勤務する人を最低賃金程度で募集する自治体もある。 安全管理などの知識も必要となるが、信じられないことに空き時間で働く「スキマバイト」で募集していた施設もある。
Q 学童保育の収入だけで生計を立てるのは厳しいものか。 A 熱い志を持って学童保育の現場に飛び込んでも、金銭面の理由で結婚などを機に退職を選ぶ現状を何度も見てきた。 ぜいたくとは言わずとも、せめて生活ができるだけの待遇にしてほしい。子どもが好きで働いている支援員が自らの子育てを諦めなければいけないのはあまりに悲しい。
Q 預かり先がなく、保護者が離職せざるを得ない「小1の壁」も問題化している。 A 施設数を増やしていくこと、学童保育の質を上げていくことが重要。過密状態の施設を少なくしつつ、施設の質を底上げしていかなければならない。
Q 具体的には。 A 運動や読書、お絵かきなど、関心の対象は千差万別だ。現在は通っている学校内の学童に預かってもらうケースが多い。場所も友人も学校生活の延長となり、合わなかった場合には大きな苦痛となる。 子どもが楽しく過ごすことができれば、保護者にとっても幸せなことだ。子どもたちが放課後の過ごし方を自由に選べる社会にしていきたい。
▽東京都が独自の認証制度
東京都庁=2025年2月、東京都新宿区
こうした学童を巡る課題の解消へ東京都が動き始めた。量の増加と質の向上を目指し、全国的にも珍しい独自の認証制度を来年度の早期に創設する。たたき台になるのが、昨年12月に都の有識者委員会がまとめた基準案だ。
有識者委は「子供の最善の利益を考慮した育成支援の推進」の重要性を明記。次のように認証の基準案や職員の待遇改善案を示した (1)国基準の1クラスのあたり2人以上と規定する支援員を、子どもときめ細やかに接するため3人以上配置する (2)日曜や祝日、年末年始を除き毎日子どもを受け入れ、平日は閉所時間を午後7時以降とする (3)夏休みをはじめとした長期休み中に昼食を提供する (4)働き続けられる施設を増やすため賃金体系を策定し、支援員の研修機会を確保する
都の担当者は「一定の基準を満たした施設を認証し、インセンティブを与える方針だ」と話す。制度を通じて待機児童解消や施設の過密防止、職員の処遇改善など、多様な課題解決につなげる道筋を描く。
▽学童に多様性を
東京都の小池百合子都知事(右中央)に要望する都学童保育協会のメンバーら=2024年11月、東京都庁
有識者委の委員を務めた、都学童保育協会の坂井徹会長は「通いたい学童を選べず、合うか合わないか分からない状態で通わざるを得ない状況になっている。制度創設で多様な学童が登場し、子どもたちの関心に応じて選択できるようになれば」と期待感を口にした。