地下鉄サリン事件被害者支援のNPO、3月末で解散へ 「これからもできる限りのことを」

平成7年のオウム真理教による地下鉄サリン事件の被害者に無料検診を行ってきたNPO法人「リカバリー・サポート・センター」(RSC、東京都新宿区)が今月末で解散する。事件からまもなく30年。スタッフや被害者の高齢化が進み、無料検診の受診者も減少しているため、節目を機に活動の幕を閉じる。
理解乏しく
RSCは医療関係者や弁護士、ジャーナリストらによる地下鉄サリン事件被害者への支援組織が発展する形で平成14年に設立。被害者への無料検診を進めてきた。
サリン事件の被害者の多くは、視力低下や疲れやすさなどの症状を訴えた。だが医師の間でもサリンの後遺症への理解は乏しかった。事務局長の山城洋子さん(76)は「症状を訴えても『年のせい』と言われてしまう方もいる」と話す。
RSCは前身時代の12年から90回以上、延べ約2700人に検診を行ってきた。受診した被害者の一人は、RSCの広報誌「木の根」最終号にこんな言葉を寄せている。「サリン中毒の可能性を指摘されようやく自分の体の弱さを責めるだけの日々から解放されました」
心の回復
日本医科大の大久保善朗名誉教授はRSCが検診したうちの約1500人の訴えを分析した。最後の検診となった令和5年時点では24・1%の人が心的外傷後ストレス障害(PTSD)の疑いがあるという。
RSCは被害者の心の回復にも注力してきた。平成17年からは被害者同士で現場路線を歩く「メモリアルウオーキング」を開催。検診会場に設けた「談話室」は被害者の貴重な交流の場となった。「他の被害者と話す中で、『自分だけじゃない』と思えるようになった方もいた」と山城さんは振り返る。
令和4年には事件の記憶を継承するため、被害者5人が体験を語るイベントも開き、動画投稿サイト「ユーチューブ」で動画を公開した。
「字」で分かる
山城さんには被害者への検診申込書の返却という仕事が残されている。「何年も蓄積され、字の書き方だけで具合が分かる」(山城さん)という事実上の問診票だ。今後の治療に役立ててもらうという。サリン被害の症状をまとめた例として珍しいため、ほかの活用法も模索している。
解散が決まった後も、山城さんの携帯電話には被害者から問い合わせがあるという。「これからもできる限りのことはしたい」と山城さん。被害者同士をオンラインでつなぐ、といった側面支援を今後も続けるつもりだという。(内田優作)