香川にある天台宗の寺の住職から足掛け14年にわたって心理的監禁状態に置かれ性暴力を受けていた――。尼僧・叡敦(えいちょう)さんがそんな衝撃の事実を告発し、関係した2人の僧侶に対し僧籍剥奪の処分を求めてから1年あまり。教団の裁判所にあたる審理局はこのほど加害者の僧籍を残すという判断を示した。
それに対し、叡敦さん本人が4月4日、都内で記者会見し、「たった3回の審判で、当事者である私の話は一度も聞かれることがなかった。天台宗は女性への性暴力を肯定する教団としか思えず、この処分を受け入れることができません」と声を震わせた。
天台宗務庁は昨年11月、60代の加害僧侶A氏と、その師匠で、叡敦さんから救助を求められながら対応せず実質的に助長したとされる80代の大僧正のB氏の2人について、「懲戒審理が相当と判断」し、2人を審理局に審理請求をした。
「審理」とは教団内の術語だが、いわば内部で処分を判断する裁判機関(審理局)に“起訴”したかたちだ。審判にあたるのは3人の僧侶だ。
1月以降、3度の審判会の末、A氏については「僧籍剥奪」より軽い「(香川県で勤めていた寺の住職の)罷免」、B氏については「懲戒に該当しない」という結論を下し、叡敦さん側にその結論だけを3月27日に通知した。A氏は、住職という役職こそ解かれたものの、事件を起こした寺で天台僧として暮らすことも、別の寺の住職に転職することも否定されていない。
“判決理由”は被害者側に「全く知らされていない」
そもそも叡敦さん側は第三者機関の設立を求めていたがかなわなかった。内部の審判に委ねるにしても審判会の公開を要望したが、審理局は非公開を決定。しかも、仮に刑事裁判ならば、捜査とは別に改めて法廷で被害者から聞き取りが行われるが、叡敦さん側は一度も呼ばれることはなかった。
おまけに決定の主文だけは宗務総長から叡敦さんに通知されたものの、どのような事実認定だったのか、“判決理由”にあたる部分は「全く知らされていない」(代理人の佐藤倫子弁護士)という。
決定から20日以内に不服申し立てできるというのが宗規上の定めだが、資格を与えられているのは審判を受けた“被告人”の2人と“起訴”した宗務総長だけ。被害者にはその権利が与えられていないのだ。
4月4日、叡敦さんは宗務総長宛に不服申し立てをするよう懇請する手紙をファックスで送る一方、会見では「内部関係者だけで結論を出したことに問題がある」と語り、「原点に立ち返って、いちから外部の人による第三者委員会を立ち上げ、審判をし直していただきたい」と訴えた。
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