《えきそば3850円》「しんぶん赤旗」を取材拒否、3月には爆発事故も…交通の便が悪い「夢洲」にこだわった大阪万博は「成功」と言えるのか

トランプ米大統領の「洪水戦略」をご存じだろうか。さまざまな政策を次々に打ち出して洪水のように情報をあふれさせ、批判をかわす戦略のことだ。
それでいうと大阪・関西万博はうっかり洪水戦略をやっていた。会場建設費の増大、海外パビリオンの建設遅れ、売れない前売りチケット、メタンガスの危険などなど、開幕寸前まで負の情報が洪水のようだった。どこから見ていいか迷ってしまうほどニュースのパビリオン状態だった。
万博協会が「しんぶん赤旗」を取材拒否
さてこうなると注目は「メディアの力」だ。開幕4日前にメディアに会場見学をさせた翌日、紙面は賑わった。
『大阪関西万博お披露目 開幕あと3日!!想像超えるワクワク』(スポーツ報知)
これは楽しそう!
朝日新聞も負けていない。
『万博めし、ここにしかない味 えきそば3850円、養殖魚のすし160円から 海外ご当地グルメも』
と3850円のえきそばを薦めていた。普段は庶民派を偽装する朝日だがこういうとこでバレてないか。いずれにしてもメディアの力は偉大だ。万博のプロセスや現状の問題点が一気に吹き飛ぶムードになった。
一方で驚いたのは万博協会が「しんぶん赤旗」を取材拒否したことだ。日本共産党機関紙「赤旗」は愛知万博でも協会から記者証が発行され、政府官庁・自治体でも他メディアと差別なき対応を受けており、今回の取材拒否は異常だと記者はSNSで訴えた。
《問題点を追及するフリーの記者も排除されており、批判的報道を締め出すねらいがみえます。》(「赤旗関西記者」のX)
思い出したのは万博協会副会長の吉村洋文大阪府知事である。昨年、リング建設などに疑問の声を上げていたコメンテーターの玉川徹氏に対して「『入れさせてくれ』『見たい』といっても、もうモーニングショーは禁止。玉川徹禁止と言うたろうかなと思う」と発言。言論統制だと批判された。吉村知事は発言を撤回したが自分の気に入らないメディアや記者は取材させないという態度は万博で続行中なのだ。
3月にはメタンガスによる爆発事故も
万博は直近ではメタンガス問題だ。着火すれば爆発する恐れがある濃度のメタンガスが検知されたのだ。テストラン時に共産党市議が指摘した。実際昨年3月にはメタンガスによる爆発事故が起きている。このときも万博協会の情報公開の姿勢が問われていた。今回の大阪万博の見どころは「言論統制万博」「情報隠ぺい万博」になってしまうのか。これが“展示”されている。
では開催側における万博の意義とは何か。「なぜ夢洲なのか」。ここにポイントがある。前売り入場券の売り上げが低迷して当日券販売も検討し始めたのは2月だったが、そもそも来場予約のしくみが厳密だった背景には何が?
《立地の問題がある。会場となる大阪湾の埋め立て地「夢洲(ゆめしま)」につながるのは鉄道が1本、道路が2本のみ。一度に多くの人が訪れてしまうと、雑踏事故の危険があるほか、交通網がパンクし、混乱が地域全体に広がりかねない事情を抱えている。》(朝日新聞2月5日)
メタンガスの危険があるのも「夢洲」の成り立ちに関係がある。一部は一般廃棄物などで埋め立てられた地域だからだ。そんな場所でなぜわざわざやるのか。次の記事を見てほしい。
「交通手段限られる夢洲を会場にした理由は何か、万博誘致担った松井一郎・前大阪知事に聞く…開幕まで2か月」(読売新聞2月13日)
(カジノを含む)IRと密接に関係
当初、府の候補地案は6か所あったが夢洲は入っていなかった。松井前知事は「ベイエリアの発展は、大阪の成長には絶対に必要だ。だから夢洲を入れるよう、菅さんにお願いした」。菅さんとは当時の菅義偉官房長官のことだ。
ただ、万博は半年間の開催だからそれだけでは不十分だと思い、
「だから(カジノを含む)IRだ。(略)そうしないと夢洲の価値は上げられない。」
いかがだろうか。カジノが密接に関係している。ノンフィクションライターの松本創氏は「要は万博を引っ張った人たちの目的はIR、夢洲の開発なんです」と指摘する。「文化的な意義づけや、社会的なレガシーを残す議論とは無縁で、理念や哲学はありません」(毎日新聞)
こうも表現する。「空疎だけれど規模だけでかい催しを計画し、『子供たちが国際イベントに接する意義』みたいに、万博以外でも成り立つ理屈を後から持ち出すから破綻を来す。当初は予定になかった木造大屋根リングなどの計画が降って湧いたように出るのも、その表れだと思います」
松井前知事にどうなれば「成功した」と言えるのか問うと…
先週、松井前知事は朝日新聞で今回の万博はどうなれば「成功した」と言えるのか? と問われ「僕はもう成功したと思っている」と答えている。「巨額の経済効果があると試算されている」と。ああ、確かにカネの話だけで文化的なことは言ってない。その経済効果も「試算」が前提なのだが。
ちなみにパビリオンなど建物の一部に間に合わない部分があっても「もうそこは愛嬌の範囲だと思う」とも。あれは杜撰ではなく愛嬌だったのか。
さて、松井前知事が万博はもう「成功した」と主張する一方、「失敗」だと開幕前から断じた本がある。先述した松本創氏を始め5人の書き手が多角的に検証する『大阪・関西万博「失敗」の本質』(ちくま新書)だ。昨年夏に刊行されている。
なぜ開幕前のタイミングで検証が必要なのか。メガイベントとは、
《どんな形であれ、終わってしまえば、なんとなく「やってよかった」という空気ができ、それに乗じて関係者は「大成功だった(私の手柄だ)」と言い募る。》(同書)
東京五輪もそうだった。「成功」の基準がないからいくらでも恣意的に語られてしまう。そうなる前に批評精神で指摘しておくべきだと考えたという。こうした姿勢は税金も投入されている巨大イベントでは当然だろう。しかし万博側はメディアを選び、取材拒否もする。旧日本軍にも通じる「失敗の本質」そのままだ。
《維新首長の下で府市が一体化し、政治と行政の間の線引きも失われた今の状況では、おそらく誰の責任も問われない。大阪が置かれたその状況こそ、大阪・関西万博「失敗」の本質であろう》(同書)
一方で松井前知事のような「もう成功してる」派はニンマリだろう。万博開催でカジノ(IR)のインフラ整備が「堂々と」できたのだから。
やっぱり万博をPRしてくれるメディアの力はすごい。そういえばオンラインカジノで吉本芸人が送検されてカジノに関するイメージは悪くなった。しかし今回の万博のように「皆さん、オンラインじゃない安全なカジノがいよいよ大阪にできます」という礼賛報道がいずれ出てくるのではないか? そんな予感しかしないのである。とりあえず賭けておきます。
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文春オンラインで好評連載のプチ鹿島さんの政治コラムが一冊の本になりました。タイトルは『 お笑い公文書2025 裏ガネ地獄変 プチ鹿島政治コラム集2』 。
(プチ鹿島)