〈〈川崎・20歳女性死体遺棄〉「あさひを返せ!」県警の“必要な措置講じた”説明に親族、友人ら90人が署に集まり猛抗議、機動隊も待機…父親は「嘘ばかり、謝れば済むことなのに」〉から続く
川崎市川崎区の岡崎彩咲陽(あさひ)さん(20)の遺体を自宅に遺棄したとして死体遺棄容疑で逮捕された同区に住む白井秀征容疑者(27)。彼は彩咲陽さん失踪後の今年1月に自宅で自殺未遂騒動を起こし、その後母親のアイデアを受けて米国に逃亡していた。彩咲陽さんの家族は、失踪は白井容疑者による拉致だと直後から警察に訴えたが、結局警察は彩咲陽さんを救えず最悪の結果になった。なぜ容疑者の凶行を止められなかったのか。
〈画像多数〉「何も説明してくれない」「嘘だらけ」臨港警察署に抗議にきた彩咲陽さんの親族、友人ら90人の様子、白井容疑者の少年時代の写真も
「“失踪した”とき、彩咲陽ちゃんのジャンパーも靴も家にあったんです」
彩咲陽さんは昨年12月20日、祖母らが経営する勤め先の飲食店から祖母宅に戻った後、行方がわからなくなった。 「この日の早朝に、(彩咲陽さんが)連日ストーカー行為をしていた白井容疑者が帰宅途中にもいたとのメッセージを親族に送ってるんです。直後の午前7時10分には川崎臨港警察署に電話をしていたこともわかりました」と別の親族は話す。
この電話について神奈川県警は、彩咲陽さんが顔見知りの警察官が出勤しているかどうかをたずねてきたので「不在なので8時半以降にかけてほしい」と答えた、と説明している。
そしてその2日後の12月22日、祖母宅の1階窓ガラスが割られ、窓の錠が開いていることに気づいた祖母らは警察に連絡する。
「冬なのに彩咲陽ちゃんのジャンパーも靴も家にあったんです。窓が割られていたことで、着の身着のままで拉致されたと確信しました。やったのは白井しか考えられず、家に来た川崎臨港署の生活安全課の警察官に白井を調べてほしいと訴えました」(祖母の姉)
しかし現場で警察官は「事件性はない」と言い、写真撮影も指紋採取もしなかったと家族は話す。県警は、指紋採取は今年1月7日に行なったと説明し、当日採取を行なわなかったことを認めている。
県警は、12月22日に白井容疑者から事情を聴き、自宅の様子も確認したと説明しているが、彩咲陽さんの行方を聞き出すことはできていない。
「県警は、彩咲陽さんが行方不明になった後、白井容疑者の自宅や敷地を3回調べ、任意聴取も7回行なったと強調しています。しかしストーカー規制法違反容疑で家宅捜索をした4月30日に自宅の床下から遺体が入ったバッグが見つかり、その後逮捕された白井容疑者は死体遺棄容疑を認めています。遺族は捜査を放置していたと疑っていますが、そうでないなら白井容疑者に騙された“失敗捜査”を行なったともいえます」(県警担当記者)
この“失敗”に絡み、関係者が証言した。
「警察官が任意で家の中を調べた際、部屋の一つで白井容疑者の母親が食事をしていたんです。そこに警察官が入ろうとすると白井容疑者が『ここはやめてくれ』と制止し、令状がないためそれ以上は求められなかったといいます。けれど4月30日の捜索で、遺体が入ったバッグはまさにその母親が食事中だった部屋の床下から見つかったんです」(関係者)
昨年夏、破局後にクスリをのんで自殺未遂
「『ここはやめて』と言うなら何かあるに決まっているじゃないですか。なんで『お食事の後で結構ですので見せてください』と機転を利かせないのか」と彩咲陽さんの祖母の姉は警察官の行動を嘆く。
白井容疑者宅では他にも異変があった。
「あの家には少なくとも白井容疑者と母、祖母が住んでいましたが、彩咲陽ちゃんがいなくなった日から祖母が近所のマンションに移っているんです。その後、今年1月6日になって白井容疑者が自殺を図る騒ぎが起きました。練炭か何かを使ったようです」(彩咲陽さんの親族)
これについて彩咲陽さんの祖母の姉は、 「でもおかしいんです。同じ日に彩咲陽ちゃんの弟と友達が白井容疑者を疑って家のインターフォンを鳴らしています。白井容疑者の母親がえらい剣幕で出てきて警察に通報して騒ぎになりました。その時、友達が白井容疑者の部屋の電気がパチパチと点滅しているのを見ているんです」 と話す。
この自殺騒動にも親族は疑いの目を向ける。
「白井は去年の夏ごろにも何か(クスリを)のんで自殺未遂を起こしています。その時は彩咲陽ちゃんと別れた直後の時期でした。気を引こうとした狂言の可能性もあると思っています」(彩咲陽さんの親族)
1月の自殺騒ぎは、「殺害した後、自分も死のうとしたのではないか」(捜査関係者)との見方も出ている。しかし、彩咲陽さんの祖母の姉は「絶対に違う」と訴える。
「彩咲陽ちゃんの遺体は傷つけられ、どれほどの憎しみでこんなことをしたのだろうかと、想像もつかないほどです。彩咲陽ちゃんをあんな風にした人間が自責の念から死を考えるとは到底思えないです」(彩咲陽さんの祖母の姉)
友人からバイクを借りパク、返却を求められると…
実際、白井容疑者は、次にアメリカへの逃亡を考え、実行している。この行動も、キーになったのは母親だった。 関係者によると、白井容疑者母子は家の中でもメッセージアプリでやりとりする関係で、母親は「秀くん」と呼びかけて敬語を使い、溺愛している様子がうかがえる。
彩咲陽さんの父が入手した白井容疑者と母親のメッセージのやり取りでは、2月12日に「どっか遠く行く」と言う白井容疑者に対し、母親が「アメリカがいいけれど、パスポートも取っていないし」とアメリカへの渡航を提案しているのだ。
「その後実際に白井容疑者はパスポートを取り、3月に彩咲陽さんの父に『アメリカへ行く』と口にしています。彩咲陽さんの父は警察に、ストーカー容疑かなにかで白井容疑者の出国を止めてくれ、と要請したんです。でもそうはならず、白井容疑者は4月上旬ごろには出国しました。
結局4月30日の捜索で遺体が見つかりました。彩咲陽さんの父が(1日未明になって電話をかけてきた)白井容疑者の兄に帰国させろと強く要求したんです。それを受けたきょうだいの説得を白井容疑者は聞き入れ、5月3日に帰国し、県警に逮捕されました」(家族を支援してきた兵庫県警元刑事の飛松五男氏)
県警は事件の節々に登場する母親に対し、息子の行動についてなにも知らなかったのかと事情を聴いているもようだ。
また県警本部は、消極的とも見える態度を取った川崎臨港署の対応も洗い直すと表明している。これについて捜査関係者は「実は同署と白井容疑者の間には過去にも似た“疑惑”があるんです」と話す。
「白井容疑者が地元の高校に通っていた約10年前、彼にバイクを貸した友人が返してくれと求めたところ、白井容疑者は仲間を引き連れてその友人をボコボコにしたそうです。ところが当時、川崎臨港署がこの件で白井容疑者をまともに調べた形跡がないんです」(捜査関係者)
川崎臨港署は10年前に、白井容疑者の問題をどう扱ったのか。そして今回も彩咲陽さんの家族の切実な訴えがあったにもかかわらず、なぜ白井容疑者を止められなかったのか。それが解明されない限り、事件は決着しない。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班