公取委がNPBに警告 フジテレビの取材パス没収は独禁法違反の疑い

プロ野球日本シリーズ中継の「裏番組」で米大リーグのダイジェスト番組を放送したのを理由にフジテレビから取材パスを没収するなどしたのは独占禁止法違反(不公正な取引方法)の恐れがあるとして、公正取引委員会は11日、日本野球機構(NPB)に再発防止を求める警告を出した。
公取委などによると、フジテレビは2024年の日本シリーズ第1、2戦が他局で中継されている時間帯に、米大リーグ・ドジャースの大谷翔平選手らが出場したワールドシリーズのダイジェスト番組を放送。これをNPBは「信頼関係が著しく毀損(きそん)された」などと批判し、フジテレビから取材パスを没収した。さらにフジテレビが担当した第3戦の中継に関し、放送局の変更を一時調整。他局に中継を打診したほか、スポンサーなどの利害関係者にも働きかけた。
NPBの一連の対応について公取委は、フジテレビへの「制裁」であり、NPBの意向に反すれば不利益を被ると萎縮させる効果があった▽番組編成における選択の自由を制限した――などと判断。その結果、NPBは競争関係にある大リーグ機構(MLB)の取引を妨害し、独禁法が禁じる「不公正な取引方法」の恐れがあると結論付けた。
一方、NPBは調査段階で違法性を否定。大リーグの放送権は広告代理店を通じて各放送局にライセンスが振り分けられるため、フジテレビとMLBは直接契約をしておらず、両者の取引を妨害していないなどと反論したという。
最終的に公取委は、広告代理店が介在しても実際にコンテンツを扱うのは放送局であり、MLBとの「実質的な取引関係」を重視した。公取委幹部は「NPBの法解釈は形式的な側面を捉えているに過ぎず、本質的な独禁法上の影響について理解が十分でないと言わざるを得ない」と指摘する。
取材パスの没収などを巡っては、NPBと放送局側との「特殊」な関係性も背景にあったとみられる。
複数の関係者によると、発端は十数年前の日本シリーズ。「不人気」とされた球団同士が対戦し、一部の試合が中継されなかった。NPBは当時「スポンサーを確保できれば中継する」との放送局側の意向を確認。後の日本シリーズで自ら交渉に参加して「大口の看板スポンサー」を据え、「全試合の地上波生中継」を実現した。放送局側も「一定の営業補償」を得るメリットがあったとされる。
こうした経緯からNPBには「球団、放送局、スポンサーと一体となって日本シリーズを盛り上げてきた。フジテレビの行為はそうした関係性への背信」との認識があったとみられる。
調査や警告、過去にも
日本のプロ野球を巡っては、公正取引委員会が過去にも独占禁止法に基づく調査や警告を行った。対象はいずれも、日本野球機構(NPB)内の組織でセ・パ両リーグの野球連盟や12球団でつくる「日本プロフェッショナル野球組織」の申し合わせだった。
公取委は2020年、日本のドラフト指名を拒否して米メジャーリーグなどでプレーした選手が帰国後の一定期間、日本の球団と契約できないとした申し合わせについて、独禁法違反の疑いを指摘。「田沢ルール」と呼ばれた申し合わせは撤廃され、行政処分などには至らなかった。
24年には、契約交渉に関し、選手の代理人資格を日本弁護士連合会所属の弁護士に制限したり、1人の弁護士が代理人を務められるのは1選手だけとしたりする申し合わせを調査。独禁法違反の恐れがあるとして警告した。【山田豊】