東京都議選(定数127)は午後8時に投票が締め切られ、開票作業が進んでいる。物価高や賃上げ対策などを争点に計295人の候補者が争う展開だ。今回の選挙は、4年ごとの都議選と、3年ごとの参院選が重なる通称「巳年選挙」。参院選の「先行指標」となる今回の選挙の結果は、石破政権の行方にどう影響するのだろうか。(編集委員・吉田清久)
政局に結びつく巳年選挙
国政での支持政党と、都議選での投票先は関連がある。それだけに各党は党首や党幹部を相次いで選挙区に投入し、国政選挙並みの力の入れようだった。石破首相(自民党総裁)も選挙戦最終日に二つの激戦区に姿を見せた。
「巳年選挙」には政局を引き起こした歴史があり、政権退陣につながったことさえある。
例えば1989年。都議選で自民党はリクルート事件、消費税問題などの逆風を受けて惨敗する。直後の参院選でも自民党は大負け。かたや土井たか子委員長率いる社会党は「マドンナブーム」で躍進し、当時の宇野内閣の退陣につながった。
「巳年選挙」は政権基盤の強化を後押したこともあった。
2013年は都議選で自民党は59人の候補者全員が当選し、都議会第一党を奪還。民主党は議席を大幅に減らして第4党に後退した。迎えた参院選は、自民党が65議席を獲得、自民、公明両党は非改選分を含めて参院の過半数を確保した。参院で与党が少数の「ねじれ国会」は解消した。安倍首相は長期政権への礎を築いた。
「石破おろし」は吹くのか
事前の情勢調査などをみると、どの勢力が大勝するわけでもない「勝者なき選挙」になる公算が大きい。しいて勝者をあげるとすれば、自民党かもしれない。
えっと思う人もいるだろう。なぜか。派閥に続き都議会でも政治資金の不記載問題が判明して逆風があるにもかかわらず、自民党は、議席は減らすが、ギリギリ踏みとどまった負け方で、石破首相は89年の二の舞(宇野政権退陣)をどうにか避けられそうだからだ。参院選に向け、当面「石破おろし」は起こりそうもない気配だ。
進次郎現象で楽観ムード?
続く7月の参院選についてむしろ、自民党内では楽観ムードが広がりつつある。降ってわいたような「小泉進次郎現象」が状況を変えたという。
「自民党への逆風は収まりつつある。政治とカネの問題は終わった。進次郎サマサマだ」(自民党ベテラン秘書)
というのだ。
極秘の情勢調査を踏まえ、「自民党の獲得議席は50議席前後で公明党と合わせ、非改選との合計で与党過半数は維持する」との分析が永田町で走り回っている。そのため、「参院選でそこそこ負けるにしても大敗とならず、石破政権は意外と長続きするのでは」との観測記事もあるほどだ。
とはいえ、である。参院で与党が過半数を維持するにしても、「衆院で少数与党政権」である事実は変わらない。
譲歩を重ねる政権運営に不満くすぶる
「熟議」という形で立憲民主党、国民民主党、日本維新の会に譲歩を重ねる石破首相の政権運営に対し、自民党内では不平や不満がくすぶっている。
「参院選後、ちょっとしたきっかけを機に『石破おろし』がマグマのように吹き出す可能性はある」(自民党中堅)
さしずめ、火を起こすのは旧安倍派ではないか。幹部だった萩生田光一・元政調会長あたりがまず狼煙をあげるとの見方がある。
国民民主に連立呼びかけか
「石破おろし」に対し、石破首相はどう動くのか。予防策として参院選後、維新や国民民主党に連立参加を働きかける可能性がある。石破首相は同じ鉄道オタクの前原誠司維新共同代表と信頼関係が厚い。私はテレビ番組で二人と何度か地方鉄道で旅したことがあるが、「ずいぶんと気持ちがふれあっているな」と感じていた。実際、携帯やショートメールで連絡を取り合う仲だ。
参院選後の政局のキーワードは「連立枠組の拡大」だろう。選挙区事情を勘案すると、野党第一党の立憲民主党との「大連立」はない。石破首相が自民党総裁選(任期は2027年9月)で再選されることはないというのが永田町の共通認識だ。それまでに石破首相が自らの手で衆院解散をやれるかどうか。