埼玉のクルド人らには浸透しない監理措置、仮放免の状態でも「トルコへ帰されるよりはいい」

難民申請中でも強制送還が可能となった改正出入国管理・難民認定法(入管法)の施行から、今月で1年が過ぎた。国外退去を前提に、入管施設に収容せず一時的な就労を認める「監理措置」制度が創設されたものの、埼玉県川口市などに多いクルド人らには浸透していない。(今村錬、徳原真人)

「監理措置になれば、いずれトルコへ帰される。それだけは避けたい」。同市に住むクルド人男性(43)は語気を強める。トルコで拷問を受けたことをきっかけに2013年に来日し、妻と子供4人と暮らしている。難民申請を3回繰り返したが、いずれも認められなかった。今は施設への収容を一時的に解除されている「仮放免」の状態だ。就労や健康保険加入ができないため、次女が骨折した際は60万円の医療費を支払った。それでも、「帰されるよりはいい」と話す。
改正法は、3回目以降の難民申請者の強制送還を可能とする。同時に、監理措置を受けると、強制退去の対象者に示される「退去強制令書」の発行前であれば就労も可能になった。仮放免の人も申請すれば移行できる。
出入国在留管理庁によると、昨年末時点で同市に住むトルコ国籍者のうち717人が仮放免で、監理措置を受けたのは31人だけだった。監理措置への移行は進んでいない。

入管庁は昨年6月の改正法施行後、収容施設外で生活する場合は、原則として監理措置の方針を取っている。一方、法改正以前からの仮放免者に対しては「積極的に移行を求めることはない。監理措置になったからといって強制退去の手続きが早まることはない」(審判課)としている。
クルド人の間には、入管庁への不信感は根強い。
仮放免が長い人の中には、入管施設で長期の収容を経験した人もいる。出頭する度に帰国を促された人もいるという。そのため、監理措置に切り替えると強制送還が早まるのではないかという不安を持つ人も少なくない。

監理措置では、逃亡や犯罪を防ぐために「監理人」を指定する必要がある。監理人は虚偽の届け出などをした場合、「10万円以下の罰金」を受ける可能性がある。なり手の確保も課題だ。
仮放免のクルド人2人と1家族の身元保証人をしている同市の40歳代女性は、「生活の全てを見ているわけではない。罰金があるため、すぐに『監理人をやる』とは言えない」と話す。
クルド人の教育支援などを行っている同市の60歳代女性は、「監督しているという目で見られたくない。頼まれても引き受けるのは難しい」と話している。
監理措置への移行で生活安定

監理措置への移行で、生活が安定した世帯もある。
妻と子供2人と暮らす男性(29)は昨年12月、仮放免から監理措置に切り替えた。現在はさいたま市内の解体業者で働いている。以前から不法就労の状態で働いていたが、就労が正規に認められた。「収容される不安はなくなった」と胸をなで下ろす。社会保険の適用も受けられるようになり、「現場でけがをした時も安心」と話す。
懸念は、家族には社会保険が適用されないことで、「子供はまだ幼く、これからが心配」と不安も打ち明ける。
◆クルド人=「国を持たない世界最大の民族」として知られ、多くはトルコなどの国境地帯に住む。1990年代の同国内の混乱をきっかけに来日する人が増え、現在は川口市とその周辺に約2000人が住んでいるとされる。