滋賀・長浜で祖父が輪島塗実演へ
昨年9月、石川県の能登半島を襲った記録的な大雨で、犠牲になった輪島市の喜三翼音(きそはのん)さん(当時14歳)の遺品とみられるDVDを、被災地にボランティアで入った滋賀県長浜市の女性が発見し、復元して祖父母に届けた。翼音さんが映るDVDに涙を流した祖父母は「孫がつないでくれた縁を大切にしたい」と話し、6日、長浜市を訪れて交流する。(彦根支局 清家俊生)
翼音さんは昨年9月21日、輪島市久手川(ふてがわ)町の自宅近くを流れる塚田川の濁流に家屋ごと流され、9日後、150キロ以上離れた福井県沖で遺体が見つかった。
昨年10月、長浜市で介護支援施設やカフェを運営する川村美津子さん(65)が災害ボランティアとして輪島市を訪れた際、翼音さんの自宅から数百メートル下流に位置する川沿いで、泥まみれになったDVD2枚が入ったケースをがれきの中から見つけた。
「令和3年度 河井小学校6年生 キセキ 創造 僕らの未来は、僕らで創(つく)る」
パッケージを見ただけで卒業記念品と分かった。持ち帰るのははばかられたが、知人に「放置しても捨てられるかもしれない」と言われ、きれいにして持ち主を探そうと決めた。
だが、雨風にさらされていたDVDは家庭用の機器では再生できなかった。川村さんは1月、専門機材のある大津市の映像会社に復元を依頼。1枚はデータが壊れていたが、もう1枚は8~9割の映像を復元することができた。
持ち主を探すため、ボランティア仲間が協力して聞き込みを実施。翼音さんの祖母・悦子さん(65)と連絡がついた。DVDの発見場所より上流に住むその年度の卒業生は、翼音さんしかいないことがわかった。
3月、金沢市で川村さんと面会した悦子さんは、その場でDVDを視聴した。小学校の音楽パレードでトランペットを演奏する翼音さんの姿が流れた。
「『バトンをやったらいいんじゃない』と勧めたのに、翼音は『トランペットをやるの』って。音楽が好きな女の子だったな……」。悦子さんの脳裏には、翼音さんとの日常の何げないやりとりの一つ一つが浮かび、涙が止まらなかった。
川村さんは、6日に長浜市のカフェで開くイベントに悦子さんを誘い、翼音さんの祖父で、輪島塗の蒔絵師(まきえし)の誠志(さとし)さん(64)に輪島塗を実演してほしいと頼んだ。誠志さんは「翼音がつないでくれた縁だ」と引き受けた。
当日、会場にDVDを展示する。翼音さんの発案でフクロウのイラストを入れた、誠志さんのコップも販売する。悦子さんは「翼音のことを思い出すのは今もつらい。出会いを大切にして、少しずつでも前を向きたい」と話している。
川村さんは「DVDの映像を見てもらうことができて良かった。今後も交流を続けたい」と話している。
イベントの会場は、長浜市布勢町の「冥土(めいど)カフェ」。6日午前10時から。