住居の強制執行を目前に控えた2024年11月、福岡市早良区の団地で76歳の父親を殺害した48歳の男に対し、福岡地裁は6月12日、懲役10年の判決を言い渡しました。
就寝中の父親を「タオルで2、30分かけて」絞め殺した行為に、福岡地裁は「生活保護など複数の選択肢があったにもかかわらず、物事の優先順位を誤った」と厳しく指摘しています。
無職となり父親の年金で生活 住居明け渡しの強制執行迫る
判決などによりますと武石伸介被告(48)は、福岡市早良区にある団地の一室で実父の武石昭一さん(当時76)と2人で暮らしていました。
無職となり収入がほぼなくなった伸介被告は、昭一さんの年金に頼って生活を維持していましたが、経済的に困窮して家賃を滞納。
住居の明渡しの強制執行が行われることになりました。
2024年11月12日ごろ、「住まいを失ってはいよいよ生活が立ち行かなくなる」と考えた伸介被告は、昭一さんを殺害して自殺することを決意。
就寝中の昭一さんの首をタオルで絞め付け、窒息により死亡させました。
検察側は論告求刑公判で、伸介被告の犯行態様について「タオルが破れてもなお絞め付け行為を続けた」、就寝中の昭一さんに対し犯行に及んだことについて「被害者を確実に殺害するために無防備な状態を狙っており卑劣」と主張しました。
伸介被告「生活保護は車を手放す必要があると思い、ためらわれた」
論告求刑公判で検察側は、伸介被告の動機について「生活保護は車を手放す必要があると思い、ためらわれた」という供述を取り上げたうえで「他の有効な生活手段を選択する努力をしていない」、昭一さんひとりであれば十分に年金生活を送ることができたにもかかわらず、伸介被告が昭一さんの年金をあてにして自立していなかったことが住居の明け渡しまで至った原因だと主張しました。
また「電気や水道、ガス、伸介被告と昭一さんの携帯電話は停止しておらず、必要な料金が支払われていた」「車検も通していた」という点から、「住居の賃料支払いを怠っていたのは管理会社が法的措置をとらないという根拠のない楽観さから支払いをセーブしようとした」として、「明渡しに至る経緯は同情に値しない」と述べました。
さらに検察側は、昭一さんが自力で歩行でき、買い物や自炊もできるなど生活能力を保っていたことから「いわゆる介護疲れと評価できる事実はない」。
昭一さんは、持病があるものの治療意欲が高く、「実子に殺されて人生を終えるという悲惨な最期を遂げた」「余生を突然奪われた昭一さんの無念は察するに余りある」と述べていました。
福岡地裁「物事の優先順位を誤り、最悪の選択をした」
判決で福岡地裁は「強固な犯意に基づくものである」としつつも、「同種事案との比較において際立った悪質性があるとまではいえない」と認定。
むしろ動機・経緯に着目すべきだとして、「生活保護の受給など、自らの経済状況を改善するための方策が複数考えられ、実際、実父の通院先のソーシャルワーカーからその示唆を受けることもあったのに、生活保護受給に伴って保有する自動車を手放す必要が生じることを案じるなどして、物事の優先順位を誤り、問題を先送りする中で、実父に事態の相談等をすることもないまま、一方的に実父を殺害し、自殺を図るという最悪の選択をした」と厳しく指摘しました。
そのうえで福岡地裁は事実を認め、犯行に至ったことについて後悔の念を述べているとの情状を考慮して伸介被告に懲役10年の判決(検察側求刑:懲役12年・弁護側意見:懲役7年6か月)を言い渡しました。