2017年に神奈川県座間市のアパートで男女9人を殺害し、強盗・強制性交殺人、死体損壊、死体遺棄などの罪で死刑が確定していた白石隆浩死刑囚(34)の刑が6月27日、執行された。
SNSで自殺志望者を募り殺害した座間事件は、衝撃的だった。「死にたい」などとSNSで投稿した男女9名をターゲットにした犯行は、その現代的な手口と、自殺志願者の悲痛な声が社会的に大きな関心を呼んだ。そしてこの事件をきっかけに、 厚生労働省は自殺相談の窓口に電話やメールのほか、SNSも加えることを決定。相談の件数は増えているが、その効果の検証はどうなっているのか──。
若者の生きづらさをテーマに長年取材を行い、日本自殺予防学会メディア表現支援委員会委員を務める渋井哲也氏の著書『子どもの自殺はなぜ増え続けているのか』(集英社新書 )から一部抜粋・再構成し、座間事件とSNS事業の効果を紹介する。【全2回の第2回。第1回を読む】
座間事件で浮き彫りになった若者自殺とSNSの関係
自殺総合対策大綱の見直し(2017年7月)で、自殺予防教育を具体化させたものが、「SOSの出し方に関する教育」だ。しかし、SOS教育を推進していく中で、衝撃的な事件が起きた。
2017年8月から10月にかけてTwitter(現X、以下同)で「死にたい」などと悩みをつぶやいていた高校生や大学生ら若年層の9人が、白石隆浩死刑囚に殺害された「座間事件」だ。この事件が、子どもや若者の自殺対策に影響を与えたと思われる。事件発覚後、厚労省は、自殺対策としてNPOなどに委託する形でSNS相談を事業として始めた。
白石死刑囚の目的は、女性のヒモになることだった。最大の目的はお金だったにもかかわらず、殺害したのはお金がない若年層だったところは矛盾していた。
座間事件は自殺対策の関係者に大きな衝撃を与えた。
座間事件がきっかけで始まったSNS相談
厚労省はこの事件を受けSNS上でのSOSがキャッチできていないとして、SNS相談の拡充をし、相談を担うNPOなどに補助金を出すことにした。NPOや数ある支援者よりも、白石のような犯罪者のほうが、自殺願望のある若年層の心を明らかにつかんでいた。子どもたちのSOSは、SNSの見知らぬ人とのやりとりの中にあることがわかった厚労省は、LINEなどを窓口とするSNS相談に目をつけた。筆者も、SNS相談を始める複数のNPOで、相談員の研修を目的とした講演をしたことがある。