2024年9月、福岡市西区の住宅街で帰宅途中だった21歳の女性を暴行を加えて拒絶できない状態にして性的暴行を加えたうえ、けがをさせた32歳の無職の男に対し、福岡地裁は7月17日、「行為の態様は悪質で結果は重大」として懲役6年6か月の判決を言い渡した。
未明の路上での犯行、32歳男が女性に声をかけて犯行に及ぶ
事件は2024年9月26日の午前1時ごろに発生した。
無職の岩永凌被告(32)はコンビニエンスストアでの買い物を終え、自宅に向かって歩いていたところ、飲み会を終えて帰宅途中だった女性(当時21)を発見。
「大丈夫ですか」などと声をかけた。
女性は「大丈夫です」と答えて歩き始めたが、岩永被告は、女性の背後からその着衣の中に手を差し入れて胸をもみ、地面に転倒した女性の身体に覆いかぶさる暴行を加えた。
そして、拒絶できない状態にさせて、女性の唇にキスをし、性的暴行を加えた。
一連の暴行により、女性は加療約2週間を要する左肩打撲傷の傷害を負った。
被害後、女性は直ちにスマートフォンを使って友人に連絡して助けを求め、友人が呼んだタクシーで帰宅した。
翌日以降、女性は複数の友人に被害を打ち明け、約1週間後の10月3日に警察署を訪れて事件が発覚した。
検察側「被害者の証言は信用性が高い」7年の求刑
検察側は岩永被告に対し懲役7年を求刑した。
検察側は被害女性の証言には高い信用性があり、岩永被告が犯行に及んだ事実は明らかだと主張した。
検察官は被害女性の証言の信用性が高い理由として次の5つの要素を挙げた。
(1)被害状況についての証言が具体的かつ合理的であること
(2)被害女性は飲酒していたものの、酩酊の程度は低く、自己に起きた状況について十分に認識記憶できる状況にあったこと
(3)女性が複数の友人に打ち明けた被害内容はいずれも同じ被害内容であって一貫していること
(4)全く見ず知らずの人物である被告人に対して虚偽内容の被害状況を証言する理由が全くないこと、
(5)警察に被害を申告した経緯に不自然な点がないこと
弁護側「不同意わいせつ傷害罪成立」執行猶予付き判決を求める
これに対し弁護側は、岩永被告は一連の性交等行為をしておらず、不同意わいせつ傷害罪が成立すると主張し、執行猶予付きの判決を求めた。
弁護側は、被害女性が当時疲労と酔いのため通常と異なる状態だったことを指摘し、性被害を受けたにもかかわらず、事件後に入浴もせずに就寝したことから、女性の供述が思い込みや勘違いに基づくものであると主張した。
また、岩永被告自身が自分に不利な事実も供述しているのに対し、被害女性がそれらの事実を供述していないことを指摘し、岩永被告の供述の方が信用できると主張した。
弁護側は、被害女性の足が閉じられていた状況で短時間で性的暴行を加えることは困難であったにもかかわらず、女性の下半身に痛みやけががなかったことも不自然だと主張した。
裁判所「被害者の証言は信用できる」不同意性交等傷害罪を認定
福岡地裁(今泉裕登裁判長)は、被害女性の証言は十分に信用することができると判断。
岩永被告の性的暴行を認定した。
判決で福岡地裁は被害女性の証言が具体的かつ明確で、他の証拠と整合しており、思い込みや勘違いをしたり、殊更に嘘をついたりしているとは考え難いと指摘。
被害を受けた女性が事件直後から友人らに一貫して性的暴行被害を訴えていたこと、女性にとって岩永被告は見ず知らずの他人であり、不利な嘘の供述をする理由が想定し難いことなどを挙げ、女性の証言の信用性を認定した。
一方、岩永被告の供述については、内容が不自然、不合理であったり、合理的な理由がなく供述内容が変わっていたりする面があって、直ちに信用することができないと指摘した。
そのうえで福岡地裁は「岩永被告が被害女性を強引に付近の暗がりに連れ込んで抵抗を排除して犯行に及んでおり、わいせつ行為や性的暴行行為の態様は悪質である」「被害女性は見知らぬ男性に突如襲われて被害に遭い、プライベートな箇所を侵害され、けがも負っており、現在も怖くて夜一人で外を歩けないなどの支障が生じている。結果は重大」として岩永被告に懲役6年6か月の判決を言い渡した。