ウクライナ出身の政治・外交評論家、ナザレンコ・アンドリーさん(30)は昨年10月、日本に帰化し、20日投開票の参院選で日本人として初めて一票を投じた。ナザレンコさんは「政治家にとって、選挙に行かない人は存在しないに等しい」と指摘。また、川口クルド人問題については「日本社会の中にクルド人の社会ができてしまっている」と懸念を示した。
政治家も無視できなくなる
七夕の今月7日、ナザレンコさんは自宅から歩いて期日前投票所へ向かい、日本人として初めての一票を意中の候補へ託した。
「ウクライナ国籍のころも一度も棄権したことはない。ウクライナは独裁になったり民主主義になったりいろいろあったから、投票は命がけのこともある。日本では投票所へ行くだけで国を変えられる。民主主義がどんなに素晴らしいことか、よくわかっている」
2014年に19歳で来日してからも、大統領選も国会の選挙も在外投票してきたという。
「今回は日本人として初めての選挙だったが、この与えられた権利は『ただ』ではない。政治家にとって、選挙に行かない人、投票しない人は存在しないに等しい」と話し、こう訴えた。
「投票率が上がれば、政治家も無視できなくなる。必ず自分の一票を国政へ届けてほしい」
自己と国籍を合わせる手続き
日本に帰化する外国人は近年、年間7千~9千人で推移しているが、中には「日本のパスポートが便利だから」「在留資格の更新が面倒だから」といった理由で帰化する外国人も少なくないという。
ナザレンコさんは「帰化とは、自分が日本社会の一員だというアイデンティティーと国籍とを合わせる手続きであり、何かの手段であってはならない。選挙に出たいからと帰化する人もいるが、本来あるべき目的から逸脱している」と語る。
来日してから、帰化申請まで10年かかったのも、誇りをもって正当な道から日本人になりたかったからだという。
「たとえば日本人女性と結婚したり、ウクライナからの難民という地位を利用したりといった、ゆるい条件での帰化も認められたとは思う。でも、私はそうした方法に頼りたくはなかった」
留学生として来日し、都内の日本語学校に1年半、通った。学費は両親が出してくれたが、生活費は新宿・歌舞伎町のラーメン店で働いて稼いだ。住まいは3畳半の部屋。日本語能力試験は最も易しい「N5」から始めて大学2年で最上級の「N1」まで取得した。流ちょうな日本語で「話すより書くほうが得意です」と言う。
クルド人同士で固まって生活
ひるがえって現在、埼玉県川口市に在留するトルコ国籍のクルド人の約75%は難民認定申請中で、認められず申請を複数回行っている人も国籍別でトルコが最も多く全体の約46%を占める。彼らの生業の解体工事業は肉体労働系で、日本語を使う機会は多くないといわれる。
ナザレンコさんは「クルド人同士で固まって生活し、日本社会との関係を築かないため、地元住民が不安を覚える状況をつくり出している」と指摘。同様の状況はベトナム人の技能実習生の間でもみられ、ベトナム人同士で寮生活し、同じ職場で働き、日本語を学ぶ必要性を感じない。結果的に「社会内社会」が形成されているという。
日本に在留する外国人が増え続ける中で、ナザレンコさんは日本政府が行うべき対策として、不法滞在者の徹底的な排除と、日本語教育の充実を訴えている。