看護師の5割が“泣き寝入り”3割が退職…「医療現場のハラスメント実態」

医療現場で慢性的な人手不足が続く中、看護職は上下関係や専門職間の力関係、性別役割の固定観念により、ハラスメントを受けやすい構造に置かれている。一方で、被害の実態は可視化されにくい。株式会社SISTERSはこのほど、一般社団法人看護職の採用と定着を考える会とともに、全国の看護職216人を対象に「職場におけるハラスメント実態調査」を実施、結果を公表した。
8つの代表的なハラスメント項目について実態を尋ねたところ、「怒鳴る・威圧的な態度(124件)」が最も多く、「プライベートの誘い、結婚の有無などの介入(56件)」「役立たずなどの人格否定の発言(52件)」が続いた。すべてのハラスメントの経験・見聞きが「ない」と回答したのは216人中16人のみで、回答者の約93%がなんらかのハラスメントを経験・見聞きしていた。
男女別に分析したところ、男性は「性別に基づいた業務のアドバイス」での被害が女性より約20ポイント高く、「身体を小突く・ものを投げつける」も約10ポイント上回った。男性は“男らしさ”や体力があることを前提とした役割期待や威圧的な対応を受けやすい傾向がうかがえる。一方で女性は、「容姿・結婚の有無など私生活への介入(+10ポイント)」や「産休・育休に伴う不利益な扱い(+10ポイント)」の経験率が高く、容姿や私生活に踏み込む言動が向けられやすい背景を反映している。
ハラスメントの行為者として最も多く挙げられたのは「上司(115件)」で、次いで「患者(91件)」「医師(86件)」の順。組織内の上下関係によるパワーハラスメントが頻発していることに加え、対人支援職特有の「患者からのハラスメント」も深刻な課題となっている。
行為者別の傾向を分析したところ、上司・先輩・医師の三者はすべての項目で加害者として多く挙がり、組織内の上下関係による多層的なハラスメント構造が明らかに。特に上司は「怒鳴る・威圧的な態度(79件)」など、日常業務に直結する精神的ハラスメントの中心的な行為者として目立つ。一方、患者からは「身体的接触や性的発言(32件)」「身体を小突く・物を投げる(27件)」などが多かった。
ハラスメントへの対応は「上司・先輩・同僚に相談した(101件)」が最も多かったが、それに次いで「何もしなかった(60件)」という回答も目立った。「退職を検討した(31件)」「実際に退職した(35件)」という回答も回答者全体の3割を占め、人手不足が叫ばれる看護現場において、ハラスメントが職場離脱の一因となっている。
「何もしなかった」と回答した人の最多理由は「相談しても解決しないと思った(50件)」だった。「行為者を刺激してはさらにエスカレートすると思った(30件)」「職務上何か不利益を被るのではないかと思った(25件)」と続き、相談することへの不安や諦めの感情が大きな壁になっていることがうかがえる。
「職場にどのような対応をしてほしいと思ったか」を尋ねたところ、最も多かったのは「行為者を処分してほしい(93件)」だった。全体の約52%にあたり、被害を受けた側が明確な処分を求めていることが分かる。
しかし、実際に希望する対応を得られたかどうかについては、大きなギャップが見られた。「報告し、希望した措置が取られた」と回答したのはわずか11件(約12%)、「希望した対処ではないが、措置は取られた」が23件(約26%)にとどまった。「報告し、対処を希望したが措置は取られなかった」と回答した人は41件(約46%)に上り、半数近くが「対応がなかった」と感じていることが明らかになった。
対応策として「社内相談窓口の設置」は最も多く実施されている対策(98件)だったが、これを望むと答えた人は56件にとどまっている一方で、「外部の相談窓口の設置」は望む声が74件あるのに対し、実施されているのは35件だった。制度があっても、運用・組織風土に課題があるという声も多数見られ、単に制度を整えるだけでは不十分であり、匿名性や中立性の確保、通報後の安心感、そして組織全体のコンプライアンス意識の醸成が求められている。
(よろず~ニュース調査班)