「東京のスーパーじゃコメが余ってるんでしょ?…分けてよ!」コメ不足解決かとおもいきや進む2極化…ブランド米しか買わない人、買えない人、地方では「備蓄米を一度も見たことがない」の声も

昨年の「令和のコメ騒動」から続く米価の異常高値対策の起爆剤として始まった備蓄米の放出。小泉進次郎氏の農林水産大臣就任を機に随意契約での売り渡しや古古古米の放出も加わり、5キロ2000円台で店頭に並ぶようになって久しい。しかし、その「業績」を手に政府が臨んだ参院選で自公連立政権は惨敗、物価高に歯止めはかからず庶民の台所は苦しいままだ。地方に目を向けると「備蓄米を売ってるとこなんて見たことない」という声が、消費者のみならず業者からも上がっていた。
【画像】〈今はどこに売ってる?〉今年5月末に「ドン・キホーテ」で販売された販売された備蓄米を求める客の行列
新潟でも銘柄米は朝棚に並べると夕方には売り切れ
世界に冠たる日本の米どころ新潟の「備蓄米」事情はどうなっているのか。新潟市西区のスーパー「いちまん」の高井栄二朗店長は取材にこう証言した。
「うちは備蓄米はないですよ。だって(随意契約の)資格がないわけだから。利益率は銘柄米だろうがなんだろうが一緒だから、備蓄米という安価なコメを扱えるのであれば、それに越したことがない。
“進次郎米”のニュースが出たてのころ、ウチにも消費者の方から毎日電話がありましたけど、ウチでは備蓄米は売ってないと認知されてきたのかそれも落ち着きましたけどね」
政府が売り渡しの「中小小売業者」に求めた条件は「年間千トン以上1万トン未満」の取り扱い実績。年に20~30トンの取り扱いという同店のような地元密着型スーパーには、最初からゲームに参加する資格がない。
それどころか米どころ新潟ではコメ不足の解消もおぼつかない状況が続いているという。
「いまでも銘柄米は朝棚に並べると夕方には売り切れ。1家族が購入できるのは一袋と制限していても、毎日売り切れになる。問屋も米不足で困っているから、入荷の配達を週3回から週2回、ヘタしたら週1回に減らしてとまで泣きを入れてきますよ。
入荷が週1になったら6日間の空の状態を耐えなきゃならんでしょ、だから新米が出るまでは毎日新しい問屋探しだよ。
聞けば東京の大手スーパーなんかじゃコメが余っているらしいじゃない。こっちにも売りにきてくれよって感じ。一連の政策を見てきて思うことは、絶対同じこと繰り返して来年もこのままコメ不足が続くと思う。
だから知り合いのツテを辿って仕入れの経路開拓をして、農家にも直接アプローチを始めましたよ。新潟県なのにコメ不足ってなんですかね。笑えてきますわ」
新潟県内の別の流通業者はこう嘆息する。
「結局、卸関係のトップの人たちがみんな知り合いなもんで『〇〇さんところを優先に卸さなきゃいかんので、本当は備蓄米も卸す余力があるんだけど、ちょっと無理なんですわ』という断られ方をしたこともあります。2次、3次、4次の卸業者はみんなつながっていて、融通し合って消費者に届かないみたいな訳わからんことになっている。
例えばウチの卸はA社一社だけだったとして、B社にも卸してもらうように頼むとしますよね。そうすると『A社さんが絡んでますね』と断られて、後々になってA社とB社でコメを融通し合っていることがわかるっていうこと。実際はこんなもんなんですよ」
「銘柄米と備蓄米を買う層が二極化しているんです」
東海地方を担当する大手スーパーのエリアマネージャーも取材にこう証言した。
「備蓄米で潤っているのは都内だけ。確かに東海地方にも名前が知られた大きいスーパーはたくさんあるけど、地方の地場のスーパーではまだ欠品してるところもありますよ。値段も5キロ2,000台のように安い物じゃないし、その2倍するケースもある。
なぜそうなるかと言えば、備蓄米の保管場所が東日本に集中しているから。輸送コスト上、地方の小規模業者には供給が届きにくい流通構造がある。輸送費が高いと地場のスーパーではどのみち店頭価格が高くなるからと調達を諦めたところもある。
諦めずに調達し、安く売ろうと努めるスーパーもあるけど、すぐ売り切れる。スーパーに出回りにくくなるから、農家から直接大量に買って親族で分け合うというケースも少なくないですよ。
それでも東海地方はまだましな方で、九州まで行くと備蓄米を店頭で一度も見たことがないという人がザラにいますよ」
一方で米どころ新潟の流通業者がうらやむ首都・東京はコメ不足を脱したのか。文京区のスーパーの50代のオーナー女性は、こう安堵の声を漏らした。
「都内はもう米騒動終わったよ。春くらいまではコメは確かに少なくて、当時は大手スーパーがカリフォニア米を下ろしていたからね。でも備蓄米が出始めたから供給量が安定した。今じゃ都内で備蓄米を買う人は少ないと思いますよ。
よく話をする40代の主婦のお客さんが『昔のコメはまずいから』って、収穫から1年経っていないコメを買いに来るよ。備蓄米は5キロ2,000円前後だけど、ブランド米となると5キロ4000~5000円だからね。
コメの値段は2023年末から確かに一気に2倍に上がったけど、供給量が安定した今では、高い金払ってでも新しいコメを買う人が都内ではほとんど。他のスーパーからもそう聞く」
こうした「二極化」の側面を、大手流通チェーンを傘下に持つ商社の営業担当の30代男性はこう分析する。
「随意契約の備蓄米を約5000トン購入し、6月上旬から5キロ約2000円で販売し始めた。都内のスーパーには週3で備蓄米を卸しているので、市場全体の品薄感は少し薄れてきましたね。
ただ、コシヒカリなどの銘柄米は5キロ税込みで約4500円と相変わらず安くない。もう7月後半で、新米が出るまでの銘柄米の残りも少なくなっているので、仕入れ価格が簡単には下がらないからです。
当初は備蓄米を扱うと銘柄米の売り上げが落ち込むのではないかという懸念もありましたが、銘柄米は今も根強い需要があるんです。セールで備蓄米との価格差を5キロあたり1000円くらいにすると、飛ぶように売れますよ。
銘柄米を好む人はある程度金銭的に余裕があったり、お子さんのいない家庭、もしくは子供がまだ小さいとか大きくなってもう独立したとか、そういう層ですね。
一方で食べ盛りの子どもがいる家庭はそういうわけにはいかない。コメを子どもがいっぱい食べるからと備蓄米を買っていくわけです。銘柄米と備蓄米を買う層が二極化しているんです」
ファミリーマート「全国に納品は完了しています」
そして、関係者も指摘する「備蓄米は地方に行き渡っていない」という疑問を、“進次郎米”取り扱いのトップランナーとしてマスコミへの露出が高かったコンビニ大手、ファミリーマート広報部にぶつけてみた。
「精米等を含めて準備が整い次第各地域に納品をしているので、全国一律にドンという形で納品している状況ではないんです。関東地方や中部地方という大きな括りで配分をしています。
要はその地域の需要とは関係なく、当社として準備ができた段階でどんどん配っていくという流れです。最も早かったのは東京と大阪で、初日から発売し始めました。
コメ不足の中でなんとかしてお客様の手元に早く届けたいというような思いもあり、当初は少量用の1キロパックで販売をはじめ、現在は2キロ包装のものも販売しています」
ファミマとしてまだ納品漏れのある地域はあるのだろうか。
「一旦はひと通り、全国に納品は完了しています。そこからまた準備が整い次第、2度目、3度目という形で納品をして販売をしているという状況ですね。
今後の納品に地域で優先順位をつけるようなことも考えていないし、各地域、準備ができ次第という方針は変わりません」
ローソンの広報部にも確認したが「納品に地域ごとへの傾斜はつけておりません」という回答だった。 意図的な傾斜はなくとも、流通管理の特性上、備蓄米も銘柄米も地方を“軽視”せざるを得ないということか。それをなんとかするのが政府であり、全国組織の農協ではないのか。こうした疑念をもとにJA全農にも質問をいくつかぶつけてみたが、期日までに回答はなかった。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班