詐欺電話受けた女性巡査長、白髪のかつら姿で「高齢の母」に変装し現金受け渡し場所に

「俺やけど」。息子を装って「母親」にかけた電話は、兵庫県警の女性巡査長(35)の公用携帯電話にかかった。巡査長はだまされたふりをして「高齢の母」に変装して現金の受け渡し場所に。受け取り役は現行犯逮捕された。巡査長の証言などをもとに、その経緯をたどる。
巡査長は特殊詐欺特別捜査隊に所属。7月18日午前11時20分頃、県警本部で勤務中、携帯電話が鳴った。電話に出ると、男の声で「風邪を引いて病院に行った」。瞬時にオレオレ詐欺と確信し、高齢の女性のようにゆっくりとした口調で世間話に付き合った。
すると、相手は「不倫相手を妊娠させた。示談金として300万円を用意してほしい」と切り出してきた。
「何してんの。あんた大丈夫なん」。息子を持つ母親の気持ちを想像して言葉を選んだ。その後も「会社をクビになる」「裁判になりそう」と電話があった。
そして指定された現金の受け渡し場所は、神戸市東灘区のJR甲南山手駅付近。「弁護士の補佐人を行かせる」とのことだった。午後1時30分頃、巡査長は白髪のかつらとマスクをつけ、少し腰をかがめ、ゆっくり歩いて約束の場所に。日傘を差して中身が空の紙袋を入れたエコバッグを手に、待った。周辺には同僚の警察官7人が張り込んだ。
約20分後、現れたのは補佐人と名乗る大阪府吹田市に住む男(40)。「母親だったら早く渡してあげたいと思うだろう」と考え、すぐにエコバッグごと「現金です」と手渡したという。男は中身が入っていないことに気づき逃走したが、数十メートル先の路上で、警察官に取り押さえられ、詐欺未遂容疑で現行犯逮捕された。
「母親」を演じ切った巡査長。受け渡し場所で待つ間、電話のやりとりが不自然ではなかったか不安だったという。巡査長は「オレオレ詐欺は親心を利用する悪質な犯罪だと身をもって知った。被害者を一人でも減らしたい」と話した。