砂浜陥没で4歳死亡、県がブロック管理の不備認める…「仮設物」巡視・点検対象に含めず

宮崎県日南市で2022年、消波ブロックが埋まった砂浜が陥没し、生き埋めとなった4歳男児が死亡した事故で、海岸を管理する県がブロックの維持管理を怠った不備を認め、県内全海岸で管理方法を是正する方針を固めたことがわかった。「撤去予定の仮設物」だとして巡視・点検対象に含めず、危険を周知する看板も設置していなかった。国土交通省も経緯を把握しており、海岸に設置するブロックなどの工作物を安全に管理するよう、全国の自治体などに通知する方針だ。(波多江航、野崎達也)
宮崎県などによると、事故は22年4月29日に日南海岸国定公園内にある伊比井(いびい)海岸で起きた。砂浜には1~2トンの6脚型ブロックが約360個積まれ、大半は砂に埋もれていた。
男児は秋田県から母親らと旅行中、砂浜を歩いていて砂に埋もれたブロック間にできた陥没に巻き込まれ、窒息死した。海岸はサーファーらに人気のスポットだが、立ち入り規制や危険を知らせる看板はなかった。
読売新聞が宮崎県に情報公開請求して開示された工事記録によると、ブロックは県が16~21年に同海岸で行った護岸の改修工事の際に砂浜に仮置きされ、工事完了後もそのまま残された。県は、陸側の土地が海水で削られる「浸食」を防ぐためだったと説明する。事故原因については、現場の砂浜を流れる水路の水によって、砂に埋もれたブロック間の砂が吸い出されて空洞が生じ、陥没につながったと推定している。
県は海岸法に基づき、津波や高潮による浸食などを防止するため設置した堤防や護岸などの「海岸保全施設」については、異常がないか巡視・点検していたが、ブロックは仮設物と認識し、対象としていなかった。開示された巡視・点検の日誌にも、ブロックに関する記述や写真はなかった。
県河川課は読売新聞の取材に「当時は危険だという認識がなかったが、原因が明確になった今では危険だったという認識だ。(結果的に)巡視・点検ができていなかった」と不備を認めた。その上で、全海岸を対象に、今月中にも、保全施設に限らず海岸に置く全ての工作物の巡視・点検を徹底し、危険を知らせる看板を設置する方針を明らかにした。再発防止策がまとまれば公表する予定だ。
読売新聞の問い合わせで経緯を把握した国交省は、「海岸管理者である県が砂浜にブロックのような工作物を設置する場合は、仮設であっても事故が起きないよう、安全な状態に保たなければならない」と指摘。類似の事故を防ぐため、注意喚起の看板を設置したり、立ち入り禁止にしたりするなどの安全確保を徹底するよう、海岸を管理する全国の地方整備局や各自治体に通知する方針だ。
事故を巡っては、宮崎県警が県の管理責任者を業務上過失致死容疑で書類送検し、宮崎地検は23年4月に不起訴とした。県は再発の恐れがあるとして、事故直後から周辺を立ち入り禁止とし、今年7月末までにブロックの撤去を完了した。
「巡視・点検不要」誤った認識

宮崎県がブロックの維持管理の不備を認めるのに3年を要したのは、海岸保全施設でなければ巡視・点検は不要との誤った認識にとらわれていたからだ。再発防止の観点を欠いた認識だったと言わざるをえない。
海岸法や同法施行規則は災害時などの海岸防護に支障を及ぼさないよう、保全施設の巡視・点検を求めている。ブロックは埋設されていたものを護岸工事の際に掘り出し、余った分を陸地の浸食防止を理由に砂浜に置いていたといい、保全施設として整備しなかった。だが、海岸に工作物を置く以上、一時的な「仮設」でも予期せぬ危険が生じる恐れがあるのに変わりはない。
現場では一部のブロックが崩れ、散乱していた。同様のブロックを保全施設としている海岸では、強度を増すためにブロック同士の突起をかみ合わせ、巡視時の確認項目に「散乱」を設けている。維持管理が徹底されていれば、事故は防げていたのではないか。
国土交通省は、仮設物でも安全な状態を保つのが管理者の責任だとの考えを示した。同じように「巡視・点検の網」から漏れている工作物は全国にあるとみられる。国と自治体には、幼い命が失われた宮崎の教訓を生かす責務がある。
(波多江航)