世界的なスキーリゾートで知られる北海道ニセコ町が、札幌高裁で係争中の公有地返還訴訟を巡り、この土地が「重要な水源地にあたる」と訴えて署名活動を始めた。自治体が嘆願署名を呼び掛けるのは異例だが、高裁判決では1審に続き、再び敗訴する恐れもあり、町は「民意を示すことで、適切な判断を裁判所に求めたい」と説明している。
同町によると、係争中の土地は羊蹄山(標高1898㍍)の麓に位置し、町内人口の約8割、4千人の給水をカバーする水源地にある。町内で最も給水人口が多い市街地を支える重要な土地でもあり、町は平成23年5月に地下水の保全を目的とした道内初の水道水源保護条例を施行した。所有者とも協議を重ねたうえで、同25年に札幌ドーム3個分にあたる約16万3千平方㍍の土地を取得した。
ところが、元所有者である山梨県の企業から「過去に無断で売買された土地」であることを理由に所有権の返還を求められ、昨年9月の1審・札幌地裁判決では町側が敗訴した。町側が控訴し、現在は2審の札幌高裁で係争中だ。関係者によると、今年9月には元所有者との協議の場が設けられるが、不調に終われば、その後、高裁判断に委ねられる可能性もあるという。
町は土地購入後、開発されることのないよう水源保護地域としてこれまで守ってきたと主張する。最初に土地が無断で売買されたとされる時期から17年が経過しており、「町として一切、落ち度のない、正規な法に則って取得した土地。公共の福祉のため、町民の生命と暮らしを何より守りたい」(担当者)という。
近年、羊蹄山の麓では無断で違法開発される事案が頻発する。町の担当者は21日、産経新聞の取材に「今回の係争案件で、町は(過去に無断で売買された土地だったことを知らない)善意の第三者という立場だ。ただ、同様の事例は今後、全国どこでも起こり得ると考える。署名活動を通じ、こうした問題を広く知ってもらうきっかけになれば」と語った。
町は今月25日までオンラインでも署名を受け付ける。早ければ月末にも裁判所に提出する予定だ。(白岩賢太)