日本のドローン戦能力は北朝鮮以下…!? 玄海原発ドローン侵入事案で明らかになった国防の“危うすぎる現状”

佐賀県の九州電力玄海原発は2025年7月26日夜、警備員が上空に浮かぶ三つの光を確認した。原子力規制庁は「ドローンと思われる」としている。
ドローン技術と運用を知悉する現代戦研究会技術顧問の平田知義氏によれば、今回の事案は「DJI機のMAVIC3のような小型民生用ドローンをハックして、原発上空などのDJIが設定した飛行禁止エリアでも飛行できるようにした可能性が高い」とのことである。
実際、報道によれば断続的な飛行だったことがうかがわれ、バッテリーを交換しながら飛行したと思われる。九州電力も断続的な発光とモーター音からドローン侵入事案との見方を強めているという。しかし恐ろしいことにドローンだとみなした理由はこれだけで、 西日本新聞の報道 によれば施設内には上空を見上げたカメラは一切なかったという。
原発がドローン探知すらできないことを明らかに
ドローンに対して警備員の目視しかなく、また諸方面からの情報では現地には対ドローンの探知システムは皆無だったことになる。
佐賀県という中国や北朝鮮に面したエリアにもかかわらず、玄海原発はドローン侵入を一切前提としていなかったのである。このことは日本の原発がドローン探知システムを保有せず、もしくは肉眼以外には機能していないことを世界中に示したことになる。これは今回のドローンが幻であったとしても変わらない。本当に飛行していたのであれば、今回は犯人側がご丁寧にライトを点灯してくれたからよかったものの、そうでなければ何も気が付かずに爆発物などを投下されても不思議ではない。
目的は日本の探知能力と対処能力を探るためか
今回の事案は複数機での侵入が注目されており、多くのマスメディアが目的は不明としているが、おそらくは日本の探知能力と対処能力を探るための行動の可能性が高い。ドローンで侵入し、映像を撮影、動画サイトにアップされるまで把握できていなかった護衛艦いずも事案のような自己顕示欲に基づく愉快犯であれば、当然だが映像を出してしかるべきである。
それが一切公開されないのは、明確な目的を持った行動だからである。特に周波数調整も必要な複数機を飛ばしているのは、有事に備えた攪乱攻撃――小型ドローン自体で原発を物理的に破壊するのは難しい――の訓練であり、日本側の探知及び対処能力を試すための行動だろう。
この場合、日本に対する武力攻撃を用意している勢力が背後にいる可能性が高い。要するに弾道及び巡航ミサイルや長距離自爆ドローンに連動して、国内に展開した工作員によって重要インフラや自衛隊の高価値目標(F35戦闘機、護衛艦、レーダーなど)を叩くための準備という訳だ。
自衛隊幹部いわく…
実際、複数の自衛隊幹部によれば、北は北海道から南は九州各地の自衛隊施設で同じように複数のドローンによる夜間侵入が相次いでいるという。北海道では5機編隊でライトを点滅させながら飛来してきたという証言も得ている。
しかもこれらは、いずも事案以後にとみに増加しているというから、やはり日本側の探知及び対処能力を確認しに来ている公算は大きい。しかし残念なことにそれらの多くは目視による発見ばかりで、ほとんど逮捕できておらずやりたい放題にされているのだという。巨額の予算を投じて購入した探知及び対処機材の多くは売り文句とは裏腹に役に立たない有様なのだとか。
つまり自衛隊側の無能力ぶりを確認したので、今度は原発はどうなっているのかを探りに来たのではないか。もしかすると無灯火かつ高空で原発上空を既に飛来していたものの、日本側の反応がないので、より低空かつ点灯してやってきたのかもしれない。
ヒントとなる世界中での対策
こうした推測を補強するのは世界中の軍事施設で相次ぐドローン侵入事案における中国の影である。例えば2024年1月5日に中国人留学生が引き起こしたドローンによるスパイ事件。
ミネソタ大学の大学院に留学中の中国人学生シー・フェンユーが、バージニア州ニューポートニューズ造船所の米空母と原子力潜水艦をドローンで昼夜や天候を問わずに撮影した結果、最終的にドローンを木に引っ掛けたことで発覚・逮捕された――ただし同造船所が探知していたことをにおわせる報道もある――のである。
留学人生を暗転させる可能性があったにもかかわらず、彼はレンタカーを借りて2000km近くも遠征しており、悪天候下でもドローンを飛ばした。個人的な悪戯だったとは思えない。
また、 韓国では2023年3月から2024年6月にかけ、中国製の小型ドローンなどを使って、9回も釜山の海軍作戦司令部や寄港した米空母セオドア・ルーズベルトなどを無断で撮影した中国人留学生2人が逮捕起訴されている 。
2024年11月22日早朝にはドイツのハンブルクに寄港中の英空母クィーン・エリザベスの付近を飛行する1.5メートル×1.5メートルのドローンを水上警察が目撃している。
ドイツ軍はHP47ハンドヘルドジャマーを装備したカウンタードローンチームを投入したが、チームに標的にされる直前に逃げ去り、ドローンは中国系企業が共有するトレロートコンテナターミナル周辺で消息を絶った。このことから背景には中国がいるとの情報筋の指摘が報じられている。
ほかにもこの数年でアメリカ・イギリス・ドイツ・韓国などでは数えきれないドローン侵入事案が起きているが、その多くで中国や一部ではロシアの存在がささやかれているが、多くの事案で動画は公開されず、有事に向けた演習と能力テストの可能性が高い。
いずも事案後もやられたい放題の自衛隊施設上空、そして首都東京
このように世界中での事案に照らし合わせると、中国等の日本を脅威とみなす国家による組織的な演習と能力テストを兼ねたものである可能性が高い。ここで問題となるのはアメリカ・イギリス・ドイツ・韓国などは、逮捕者も出しているし、それが難しかったとしても肉眼ではなく機材による探知には成功していることである。日本の場合はほとんど逮捕できず、そもそも探知できていない。
護衛艦いずも事案もそうであったし、 自衛隊OBの中には護衛艦いずも事案を偽情報の可能性があるなどと現実を見ない向きもある 。実際、ここ半年でも装備庁幹部から筆者に真顔で「あれはフェイクじゃなかったの?」と尋ねられもした。
より深刻なのは米国の実名を名乗る映像作家が2024年5月に東京タワー上空、2025年6月にはスカイツリー上空にドローンを飛行させた一件。おそらくは違法電波で飛行させていたにもかかわらず、本人から映像が公開されるまで探知できず、悠々と再度の入国と犯行を許していることだ。
昨年8月20日には国会議事堂の近くでドローンらしきものが目撃された。警視庁のヘリコプターが目視で探したが、真偽不明のまま終わってしまった。もしもまともなドローン探知機材があれば真偽をはっきりできたはずだ。
以上の事案が国内外に与えるメッセージは「日本は首都中枢や国会や自衛隊施設や原発であろうとドローンが飛行できない場所はなく、それらに対して探知も迎撃もほとんど不可能。どうぞお好きなところで飛ばしてください」でしかない。
対策――諸外国を見習いまともなセンサーを用意し、規制を撤廃し、虚妄を捨てよ――
そうであってはいけない。いますぐ早急に世界最低レベルになっているドローン抑止力を向上させる必要がある。
そのためには、第一にドローンを知ることだ。安全保障の専門家や政府関係者の多くがドローンを実際に体験、目撃したことがない――実はこれは米軍でも同じ問題を抱えている――為にドローンを過大評価したり、過小評価したりしがちである。専門家や防衛省高官の多くが、いずも事案の当初にフェイクだと断じたのはその典型だろう。
ドローンの業界団体を自称するJUIDAも例外ではない。西日本新聞に対して「小型民生用ドローンはプログラムによって原発の上を飛べない設定になっている」「VTOL型の特殊なドローンだ」などと同団体の会員企業である中国DJI社をかばうようなコメントをしているのだ。
しかし、実際には平田氏が西日本新聞で指摘しているように、小型民生用ドローンだとしても位置情報を偽装すればプログラム制御を回避できる。またVTOL型ドローンは長時間ホバリングできないため目撃情報と異なる。日本を代表する業界団体からして知識が誤っているのだ。
なぜ誤った知識が広がるのか。航空法や電波法などの規制関係で実は自衛官であってもドローンを飛ばしたり、実験したり、目撃する機会が奪われているのが一つの要因だろう。それではいけない。少なくとも自衛隊や警察や原発などの重要施設の警備員は、国内の従前の規制を超えた、本来の性能を発揮するドローンでテロリストやドローンの性能を確かめるべきだ。
実際、韓国はハマスによる2023年10月の大規模攻撃でドローンが中核的な役割を果たしたことから、僅か2か月後に北朝鮮が同様の戦術を採用することを想定した訓練を首都ソウルにて官民一体で行っている。
こうした韓国の取り組みを見習って、東京でのドローン攻撃や侵入を前提とした実戦形式の演習を自衛隊・警察・警備会社が一体となって行うべきだ。また、富士訓練センターなどのアグレッサー部隊は、少なくともロシア軍レベルのドローン戦能力を身に付けるべきだろう。現状はロシアどころか北朝鮮軍にすら劣る。
どのように探知すればいいのか…
続いて重要なのは、探知能力の強化である。日本ではレーザーやレールガンなどの欠陥を抱えた未来技術による“対処”能力ばかりが強調されるが、そもそも探知がなくては攻撃もできないし、攻撃後の戦果確認も不可能だ。
しかしながら、自衛隊などが導入した現状の探知装置は機能していないという。
ウクライナの専門家が提起しているように、従来型の防衛産業はデジタル民生技術に弱く、まともな対ドローン機材を開発できていないという問題はある。しかし、それ以上に大きな要因は企業の売り文句とパンフレットだけを真に受けて調達している点だ。実戦形式の対抗演習で性能を確かめてから購入すべきである。
また、探知のためには規制緩和も必須だ。ある自衛隊施設では対ドローンレーダーを調達したが、総務省の指導で設置場所が山頂から中腹に移動させられ、性能が大幅に低下したという。さらに日本製のドローンレーダーの出力は、規制の関係と現代戦への無知でウクライナや台湾製のものよりかなり低く、遠くまで届かない。
レーダーよりもドローン探知が期待でき、ウクライナ戦争でも活躍しているスペクトラムアナライザー(ドローンと操縦者間の電波を受信して探知する装置)についても、本来は移動して運用すべきにもかかわらず、自衛隊の多くの施設では固定設置して受信能力を下げたり、特定の周波数帯――違法電波を前提としていない――のみを対象としており、性能が不足している。ウクライナが行っているように、小型で広範な周波数帯を探知可能な機材を可搬状態にし、機動的に運用すべきなのだ。
少なくとも当局者には、現代戦におけるドローンの国内規制を超えた性能や運用を知悉していただき、しっかりと探知して操縦者の逮捕を粛々と行うことが失われた抑止力の回復につながるのである。
このまま今回の事案のようなドローンの跳梁を放置すれば、たとえば靖国神社に放火するような人物が今度はドローンで放火を始めかねない。ドローンの治安機関におけるフルスペックの規制緩和と探知能力の向上は急務である。
(部谷 直亮)