史上最大クラスの竜巻、静岡県で1466棟に被害・1人死亡…被災者「生活再建の費用が足りない」

台風15号に伴う「観測史上最大クラス」(気象庁)の竜巻に襲われた静岡県では9日までに、全半壊と一部損壊を含め計1466棟の住宅被害が確認された。住民らは復旧作業に追われる一方、避難生活の長期化や生活再建への不安を募らせている。
「寝食できる場所が見つからないことには避難所生活を続けるしかない」。同県牧之原市の南條秀雄さん(64)はそうこぼす。
5日の竜巻で2階建ての自宅は屋根の大部分が飛んで天井がはがれ、窓ガラスは全て割れた。倉庫も吹き飛ばされた。市内の避難所に身を寄せ、夜には薄いマットレスの上で横になるが、今後の生活を考えると眠れないという。
自宅の修復を業者に頼んだが、見積もりはこれから。JBN・全国工務店協会の関連団体によると、被害のあった牧之原市や吉田町に加え、近隣市の工務店にも修理依頼が殺到しているという。
県のまとめによると、竜巻や突風による住宅被害は全半壊が163棟、一部損壊が1303棟に上った。被害の大きかった牧之原市細江地区は茶畑が点在する住宅街で、多くの家の屋根が飛ばされたり電柱が住宅に倒れたりした。同市では8世帯20人が避難所に避難している。
気象庁は今回の竜巻について、6段階(5~0)で強さを示す「日本版改良藤田スケール」で上から3番目の「JEF3」にあたると判定。自宅2階の部屋にいたという同市の会社員山田智之さん(40)は、「窓ガラスが突然割れ、風で飛ばされてきたがれきや瓦が部屋中に飛び散った。本棚もなぎ倒された」と当時の恐怖を語った。
自宅が被害にあった住民にとって、生活再建は大きな課題だ。
2階建て住宅の屋根が吹き飛ばされた同市の会社員松下和馬さん(47)は千数百万円の住宅ローンがまだ残っているといい、「これからも同じ場所で生活を送りたいが、損壊度合いの判定によっては保険や補償が少なくなる。生活再建の費用が足りない」と不安を打ち明けた。
県は住宅の応急修理と借り上げの仮設住宅の確保などを急ぐ考えだ。

静岡県吉田町は9日、台風15号の影響で5日に発生した竜巻により、町内の商業施設駐車場で車が横転し、乗っていた男性1人が死亡したと発表した。町によると、亡くなったのは同県藤枝市の50歳代男性。男性は病院に搬送されたが、5日夜に死亡が確認された。
県のまとめ(9日午後2時現在)によると、死者は1人、重傷者8人、軽傷者75人となった。
過去にも甚大な被害、夏から秋に発生しやすく

竜巻被害は過去にも全国各地で確認されている。2006年11月には北海道佐呂間町で死者9人、負傷者31人を、12年5月には茨城県常総市で死者1人、負傷者37人をそれぞれ出すなど甚大な被害につながった。静岡県牧之原市では21年5月と22年9月にも竜巻など突風の被害があった。
竜巻は台風や寒冷前線、低気圧に伴う発達した積乱雲が原因で、夏から秋にかけて発生件数が多い。元気象庁予報官の饒村(にょうむら)曜さんは「海からの暖気が流れやすい太平洋に面した平野部で発生しやすい」と語る。
発生の確率が高まった際、気象庁は「竜巻注意情報」を地域ごとに発表する。対策として〈1〉屋外では頑丈な建物の物陰に入って身を小さくする〈2〉屋内では窓やカーテンを閉め、窓から離れて机やテーブルの下で頭を守る――などの行動をとるよう呼びかけている。
ただ、防衛大の小林文明教授(気象学)は静岡県で起きた今回の竜巻の強さについて「頑丈な鉄筋の家でも壊されるレベル」と指摘。逃げ場がない場合、浴槽の中で毛布などをかぶってくるまることが被害を減らすために有効だという。小林教授は「生死にかかわる竜巻に直面する恐れがあるということを、誰もが肝に銘じておく必要がある」と警鐘を鳴らしている。