「娘ともっとたくさん話したかった」――。2022年9月に自殺した静岡県焼津市の中学3年女子生徒(当時14歳)について、焼津市教育委員会が設置した調査委員会は、いじめがあったと認定していた。生徒の父親(60)は静岡市内で記者会見し、悲痛な思いを語った。両親は9月29日、焼津市に対する約7000万円の支払いを求めて静岡地裁に提訴した。(大久保南、栗山泰輔)
訴状などによると、女子生徒は引っ越しに伴い、22年の4月に焼津市の中学校に転校。その直後から、「汚い、キモい」「陰キャ」「ウザイ」と他の生徒に悪口を言われるなどいじめを受けた。また、発表会のために黒板に描いた作品を「何、この落書き」などと言われた。同年9月28日、女子生徒は学校から帰宅後、自殺した。
女子生徒は自殺する約2か月前の道徳の授業で、SOSを出していた。いじめに関する物語を扱った授業の感想文で、女子生徒は「少しずつ本当の自分を見せるか本当の自分は出さない。また、いじめに合うかもしれないから」などと記述していた。
プリントに「Good job!」とスタンプが押されていたのみで、担任教諭は面談などを行わなかった。女子生徒は、両親に「スルーされた。学校の動きが全くなかったので諦めた」と話していた。
代理人弁護士は「援助要請をしたにもかかわらず、学校からも適切な対応が取られず、多大な精神的苦痛を日々蓄積していた」と指摘。学校が女子生徒のSOSを真摯(しんし)に受け止めなかったとして、「精神的苦痛の解消ないし緩和する注意義務を怠った」と主張した。
父親は、「優しい娘ともう二度と会うことは出来ません。娘ともっとたくさん話をしたかった」と涙ぐんだ。女子生徒は、おとなしく物静かで絵を描くのが好きで「家族思いで、ムードメーカー的存在だった」と語った。
女子生徒が自殺した当日、妻から「娘が自殺を図った。とにかく病院に向かって」と連絡を受けたが、道中で死亡の連絡を受けた。父親は「(娘の)大好きな絵に対する誹謗(ひぼう)中傷。体育の授業での誹謗中傷。他人を傷つけることがそんなに楽しいのか」と怒りで声を震わせた。
市教委は22年11月に調査委員会を設置し、23年6月に報告書をまとめ、いじめを認定。しかし、市教委は「同級生が卒業していて心理的ケアができない」などとして報告書を公表していない。遺族に示された報告書でも加害生徒の名前は伏せられていた。父親は「(娘が)どんな仕打ちをうけたかしかわからなかった。なぜ被害者が我慢しなければならないのか」と話した。
市教委の担当者は「訴状が届いておらず、コメントできない。(遺族には)深い哀悼の意を示すとともに、心よりお悔やみ申し上げます」と話した。