自衛隊、最多5万人超の実動演習…安全保障の環境悪化・負担が重い式典中止し注力

陸海空の3自衛隊による「自衛隊統合演習」が20日、始まった。2年に1度行う実動演習で、今回は過去最多となる5万人超の隊員を動員する。防衛省は今年、全国の部隊や装備を集める恒例の式典「観閲式」や「観艦式」の中止を決めている。日本周辺の安全保障環境の悪化を受け、その分、演習に力を注ぐ方針だ。(溝田拓士、横須賀支局 光尾豊)
「もはや海自には、観艦式のための余力はない」

演習は31日まで全国の地上施設と海空域で実施する。参加人員は前回2023年を約2万人上回り、車両約4180両、艦艇約60隻、航空機約310機を投入。米軍と豪軍の計約6130人も加わる。
16日の定例記者会見で、観閲式などの中止で演習が充実するか問われた自衛官トップの内倉浩昭・統合幕僚長はこう言い切った。「確信を持って(そうだと)申し上げる。期待している」
こうした式典は警察予備隊時代の1951年から始まり、近年は3自衛隊が「観閲式(陸自)」「観艦式(海自)」「航空観閲式(空自)」を各年の持ち回りで行ってきた。最高指揮官である首相が出席して隊員の士気を高め、国民に自衛隊への理解を深めてもらう狙いがあった。
例えば22年11月に行われた観艦式の場合、海自の艦艇約20隻が参加。米豪など12か国の艦船も加わり、隊列を組んで相模湾を航行した。外国の軍を招く国際観艦式として同盟国や同志国の結束も示した。
だが、隊員が行進する陸自の観閲式や、戦闘機が編隊を組んで飛行する航空観閲式を含め、式典は多数の隊員と装備を動員するうえ、準備も長期間に及ぶ。
防衛省が中止にかじを切ったのは、日本周辺の情勢が厳しさを増す中で、訓練時間を確保するためだ。警戒監視や情報収集といった日々の任務に加え、米豪などとの多国間訓練も増やしている。
海自や空自では、限られた燃料を式典に参加する艦船や航空機のために確保する必要もあった。海自幹部は「式典は3年に1度とはいえ、燃料を計画的に確保するために他の用途を減らすなどの調整をしていた」と明かす。別の幹部は「もはや海自には、観艦式のために多数の艦艇を集める余力はない」と話した。
陸自も観閲式の年には、全国の部隊から集結させた約5000人を約1か月、訓練に専従させるなど負担が重くのしかかっていた。
防衛省幹部は「式典の年には余力がなく、訓練の中身が不十分と感じることもあった」と語る。
今回の演習では、陸自輸送機オスプレイが南西諸島防衛の要となる水陸機動団を搭乗させる手順を訓練する。民間の空港や港湾も活用する。
さっぽろ雪まつりの雪像制作も1減

国内外から230万人以上の観光客が訪れる札幌市の「さっぽろ雪まつり」では、メイン会場の大通公園に設置される大雪像5基のうち、陸自が制作を担当するのは2027年以降、2基から1基に減る。
同市などによると、陸自が雪まつりに参加するようになったのは1955年の第6回から。「雪中訓練の一環」という位置づけで、陣地を構築する技術を応用した大雪像は迫力と繊細さを兼ね備え、雪まつりの「顔」とも言うべき存在になった。
潮目が変わったのは、2001年の米同時テロによる国際情勢の緊迫化だという。02年には陸自が作る大雪像が4基から3基に減り、15年以降は2基に。27年から大雪像の制作を1基だけにするのは、特定の時期に多くの隊員が割かれるのを避け、有事に備えた冬季の訓練を強化するためだ。
現地の陸自部隊を指揮する足立吉樹・第11旅団長は「災害や有事は雪のない時期に都合良く起こるものではない。何とか支障がないよう頑張ってきたが、苦渋の決断だった」と語る。
陸自が手放す1基分は道内最大手の北洋銀行が「後任」として名乗りを上げている。(北海道支社 鍜冶明日翔)