インバウンドではなく…東京の外国人は23区のどこに住んでいるのか?

今、東京の街を歩くと外国人の姿が目立つ。インバウンド(訪日外国人)が増えているからだと思う人は多いだろうが、地下鉄の車内や道端で佇む外国人をつぶさに見ると、旅行客ではないあきらかに日本に住んでいると思われる外国人(在留外国人)が多いことに気づく。
在留外国人数は過去最高を更新
法務省の発表によれば、2025年6月末現在の在留外国人数は395万6000人と過去最高を更新しており、総人口の約3.2%に及んでいる。
では東京にはどのくらいの外国人が住んでいるのかをみてみよう。東京都の発表によれば、都内に住む外国人の数は72万1000人、都区部に限ると60万5000人だ(2025年1月1日)。総人口に占める割合は都で5.1%、都区部で6.1%に相当する。
この数値を25年前である2000年と比べてみよう。都全体で28万6000人、都区部で23万9000人であったから、この間に在留外国人の数は2.5倍に激増していることがわかる。
では彼ら在留外国人は都内のどこに居住しているのだろうか。23区を対象に2000年と比較しながら探ってみよう。
外国人が多く暮らす区、増加の割合が高い区はどこか
外国人が多く暮らすのは新宿区、江戸川区、足立区、豊島区といった区である。なんと新宿区は全人口の13.5%、7人に1人が外国人ということになる。区の成人になる人のうち約半数が外国人だという報道がなされているが、実態を如実に示していると言える。
いっぽうで全人口に対する外国人割合が少ない区としては世田谷、練馬、杉並、目黒といった山の手にあって昔からの閑静な住宅地の名があがる。
特徴的なのが、2000年には多くの外国人が居住していた港区がベスト5から姿を消し、代わって登場したのが江東区だ。港区も数自体は増加しているものの25年間での増加率は1.57倍と、全体の増加率(都区部)2.53倍を大きく下回っている。いかにも外国人居住者が多いといったイメージが強い港区だが、実際にはあまり増加していないのである。この区は欧米系の外国人が多いために、全体で見るとアジア系の増加がより多いことが、全体順位を下げた大きな原因と考えられる。
次に都区部でこの25年間外国人数が増加した割合の高い区をランキングにしてみた。居住者数でベスト5入りした江東区は4.25倍の伸び。そして驚かされるのは中央区が7.73倍もの高い増加率を示していることだ。中央区は2000年には在留外国人数はわずか1624人だったものが、現在では1万2553人に膨れ上がっている。
東京はアジア人が闊歩する街へ
次に都区部においてどこの国の人が多いのかをみてみよう。中国と韓国は戦前から居住する人たち(特別永住者)が含まれるが、2000年との比較で顕著なのは、韓国人が減少していることだ。意外に思われるが、おそらく戦前から居住していた高齢者が亡くなりはじめていることが原因のひとつとも考えられる。いっぽうで中国人は3.35倍もの高い増加率となっている。これには現在の中国国内事情が複雑に絡んでいるものと思われる。
新顔としてはネパール、ベトナムがある。ネパールは中国とインドに挟まれた人口2900万人の多民族国家だが、都区部にはなんと4万1062人とベトナム人以上に多数が居住していることに驚かされる。またミャンマーは25年間で7.4倍、インドは6倍もの高い伸びになっている。
いっぽうで米国や英国といった欧米諸国はこの間でほとんど増加していない。そうした意味では東京はアジア人が闊歩する街へとその姿を変えつつあるといえるだろう。東京は世界の金融センターになり、世界中から人が集まる街になると都心再開発計画ではよく掲げられるが、そうしたスローガンのもと大勢の欧米人が来ているのではなく、アジア人中心の街になっているさまが窺える。
都内の欧米系の企業数が減少していることはあまり知られていないが、外国人専門に賃貸マンションなどを手掛けてきたある業者幹部は、最近では欧米から赴任してくる外国人幹部の役職のランクが以前よりも数ランク下がったという。かつてアジア本部は東京に設置されていたが現在ではシンガポールや香港にあるといった会社が増えているせいだとする。支社、支店に格下げされて、派遣される社員のランクが落ちたというわけだ。
国籍別で比較「どの区を好んで住んでいるか」
では国籍別に外国人はどの区を好んで住んでいるのだろうか。最も人数の多い中国人は新宿、足立、江戸川、板橋などを中心に都内に満遍なく住んでいるが、最近急増したのが江東区で、区別ではトップになった。区内に建つタワマンなどを積極的に買っている影響と考えられる。韓国人は新宿、足立、江東に多く、中国人とほぼ同様の傾向がある。
最近急増したネパール人は大田や新宿が多いが、中野や杉並にも在住者が多い。杉並の阿佐ヶ谷がネパール人街化しているのはエベレスト・インターナショナルスクール・ジャパンが開校していることも要因だろう。
ベトナム人は江戸川、足立、大田、豊島、板橋などに比較的均等に住んでいる。フィリピン人は足立区の竹ノ塚が有名でフィリピンタウンになっているほか、江戸川区の小岩、大田区の蒲田などに住む傾向がある。
ミャンマー人は豊島、新宿に住んでいる。新宿区の高田馬場、中井、荒川区の日暮里付近に多い。
インド人は江戸川と江東に多く居住する。西葛西は今やインド人の街として有名になり、駅前には多数のインドレストランが軒を連ねる。
こうした傾向と全く異なるのが米国人だ。彼らが多く住むのは港、世田谷、渋谷である。在住者は他国ほど増えていないが、居住エリアはかなり限定されるのが特徴だ。こうした傾向は英国やドイツ、フランスなど西欧諸国でもほぼ同じ傾向にある。
外国人の居住状況、各区の特徴は
区によっての外国人の居住状況の特徴をみてみよう。新宿は元来中国人、韓国人が多数住む区として認識されてきたが、現在では多国籍化が顕著になっていて、ネパール、ミャンマー、ベトナムといった国々の人を多く迎え入れている。
特徴的なのが江戸川区だ。インド人が在留外国人の16%を占め、またベトナム人も多い区になっている。江戸川に居住するインド人の中には大手町の金融機関でシステム構築などを行うエリート層も多く居住しているといわれ、通勤の便が良いことも彼らの居住志向を高めているといえる。
大田区は羽田空港に近く、また町工場が多いエリアだが、ここに多くのネパール人が集まっている。フィリピンやベトナムを含めて外国人街が形成されつつある。
いっぽうで世田谷区は外国人比率が少ない区であるが、内訳の3位に入るのが米国であるのが特徴だ。瀟洒な街並みが続く世田谷は米国人をはじめ西欧人に選好されるエリアなのである。
富裕層の外国人と「お安い」日本
さて最近は東京湾岸エリアで建設されるタワマンを多くの中国人が購入しているとされる。投資用も多く、購入者が必ずしも住民登録しているとは限らないが、湾岸エリアの中央区の外国人構成をみると、中国人比率が53%に達している。また教育区として名高い文京区に中国人が多く住み始めているとされるが、文京区も中国人比率が54%になっている。
中国人で最近居住するようになった人たちは、特別永住者の住む新宿、豊島よりも中央、港、文京、江東などのタワマン街や文教地区を好む傾向がある。すでに日本で生まれ、日本語を自在に扱う在留中国人子弟たちが、優秀な成績で開成中学、桜蔭中学などから、東京大学に進学し始めている。
これまで労働者の補助的な役割として外国人を迎え入れてきた日本だが、タワマンを購入して居住する中国人、大手町の金融機関で働くインド人などが新たな富裕層として日本で暮らし始めている。外資系投資ファンドによる日本企業の買収も活発化している。日本は何をとっても「お安い」からだ。
いっぽうで外国人労働者にとっての日本は極端な円安で「稼げない」国となる。外資系に席巻され、オフィスワーカーは外国人上司に仕え、外国人所有のマンションに住んで高い家賃に苦しみ、外国人労働者はやってこない。みじめな日本の未来はあまり想像したくないものだ。
(牧野 知弘)