青森県八戸市のみちのく記念病院で起きた患者間殺人隠蔽(いんぺい)事件に絡み、夜間に入院患者が危篤になった場合を想定し、病院が「医師が出勤するまで家族に連絡しない」とする独自ルールを設けていたことが内部資料などでわかった。医師が夜間の危篤患者に対応していないことを隠すための運用とみられる。病院職員によると、2023年3月の事件後も同様の対応は続いていた。
〈急変時、家族への連絡はドクターが来てから。先に会わせない〉〈呼吸停止時は「血圧が下がってきて危険な状態」と説明する〉
看護師が作った業務用メモには、医師不在時に患者が危篤になった場合の対応が記されている。病院のある職員は「この運用は事件の10年くらい前から続いていた」と証言する。
この職員によると、きっかけは、過去に入院患者の容体が悪化した際、主治医の石山哲被告(60)(犯人隠避罪で起訴)が病院におらず、家族に非難されたことだった。石山哲被告が病院に姿を見せたのは、病院側からの連絡で家族が到着した後だったという。
これ以降、夜間に入院患者が危篤になったり、死亡したりしても、すぐに家族に知らせない運用がまかり通るようになった。医師が病院に到着するまでの時間を稼ぐためだった。
病院は、医師住宅が近接しているとして県から当直医の配置を免除されていた。緊急時に医師が駆けつけることが前提だ。しかし、複数の職員は「医師が夜間の死亡診断をしなくても済むように、『みとり医』を配置していた」と証言する。
みとり医は、夜間や休日に死亡診断を担う。病院は遅くとも2010年代以降、少なくとも3人を配置していた。医師免許は持っているが、いずれも高齢で認知症の症状などもあり、実際には正確な診断などはできなかったとされる。
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患者間殺人隠蔽事件は、23年3月12日深夜から13日にかけて起きた。石山哲被告の兄で当時院長の石山隆被告(62)も犯人隠避罪で起訴された。石山隆被告の公判では、事件当時の対応も明らかになっている。
検察側が公判で読み上げた看護師らの供述調書によると、殺害された男性が相部屋の男から暴行を受け、血まみれで見つかった際、石山隆被告は病院におらず、電話で報告を受けた。家族に連絡しようとする看護師がいることを聞きつけたとみられ、治療に当たる看護師に対し、「『家族を呼べ』と言っているのはどこのどいつだ。連絡したら大騒ぎするのは目に見えているだろ」と激怒した。
この看護師は電話で、男性の主治医だった石山哲被告にもけがの深刻さを伝えた。しかし、「じゃあ、よろしく」と告げられ、石山隆被告からも「後はよろしく」と言われた。「私たちに丸投げで2人とも病院に来ることはないのかな」と思ったという。
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公判での検察側冒頭陳述などによると、殺害された男性は13日午前7時半頃に心肺停止状態になった。しかし、病院職員が妻に電話したのは午前10時過ぎ。両被告が出勤した後だった。さらに、別の看護師は妻に「男性は転んだ」とうそを伝えた。石山哲被告は家族と面会せず、死亡時の経緯も説明していなかった。
職員によると、病院では夜間や休日に患者の容体が急変しても医師と連絡がつかず、医師の指示がないまま看護師が医療行為をしていた。両被告が25年2月に逮捕されるまで、常態化していたという。
「院内殺人の隠蔽や家族への対応などは、病院の日常的な運用の延長だったのだろう」。捜査関係者はこうした見方を示している。